受胎告知







きらきらと光る空から現れたのは白い服をまとった朝比奈さん。
……の、集団。

五人の朝比奈さんがくるくると俺の周りを飛びながら笑っている。
小さく何かを囁きあっているようだが、俺には聞こえなかった。

長門がどこからか聖杯を持って現れ、朝比奈さんたちの間を縫って座り込む俺の前に立つ。
相変わらずの無表情のまま、聖杯の中の、美しく透き通る水を俺の腹部に注いだ。

いや、ぶっかけた、と言った方が正しいな。


そして更に上の方から、神々しい光を背負い、真っ白く大きな翼をゆっくりと羽ばたかせるハルヒが降りてきた。



何だ、夢か?
夢だろう、そうでないとおかしい。

ジークムント・フロイト先生様。
どんな深層心理ですか、これ。


「あなたに、ひかりを。」

「あなたに、せかいを。」

「あなたに、いのちを。」


朝比奈さんが、長門が、ハルヒが、順に、まるで決められていたかのように、言葉を紡ぐ。



「「「新たな生命に、祈りを。」」」



目の前に黄金に輝く扉が出現し、開かれたそれの向こうは、綺麗な綺麗な青い空。
見慣れた笑顔が、そこにあった。


「古泉?」

「ありがとうございます、愛しい人。」


何を言い出すんだこいつは、とか思いながら差し出された手を乱暴に掴む。
そういえば座り込んだままだった。


「なあこれ、夢だよな?」


えらく難解ではあるが。


「それを判断するのはあなた自身ですよ。」


ああ本当にわけがわからん!



「「「新たな生命に、祝福を。」」」



三人の声が、重なって聞こえる。

古泉はただ笑っている。
幸せそうに、笑っている。


意外に男らしく骨張った、それでも長く綺麗な指が、水に濡れた腹部をゆるゆると撫でて。



愛おしいものを見つめるように、古泉は、目を、細めた。


「夢、だろう?」

「それはあなたの、望むままに。」


優しいテノールが響く。



「「「新たな生命に―――――、」」」










最後の台詞は、光に、消えた。











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むせ返るような花の香りに、目が覚めた。


あー、変な夢見た。


これは誰かに話してやらなければ。
ハルヒなら喜んで聞いてくれそうだ。


「う、」


眩しい。
白い部屋、白いカーテンに白いシーツ。
まるで今まで夢に見ていた世界。

太陽の光を反射して、目に刺さるその光は寝起きにはきついぞ。


「あ、起きました?大丈夫ですか?」


嫌味なほどのハンサムフェイスが、隠し切れない喜びに綻びながらも心配そうに俺を覗き込んでいる。


相変わらず器用な奴だ。
日常生活ではあんなに不器用なのに。


「それとこれとは関係ありません。」


あれ、俺、声に出してた?


「はい、思い切り。」


あーまあそんな日もあるだろう、とか思いながらゆっくりと起き上がる。
ここどこだ?


………病院?


「倒れてから八時間、といったところでしょうか。驚きましたよ。」


その『驚いた』は俺が倒れたことに対するものなのか八時間目が覚めなかったことに対するものなのか。
どっちもですよ、と答えられたので俺はまた考えを声に出していたのだろう。

寝起きで調子が戻ってないらしいな。


「で、お前はどうしてそんなに嬉しそうで、どうしてこの病室には大量の百合の花があるのか、と俺は問いたい。」

「あれ、分かりません?多分、僕と同じ夢を見たと思うんですけど。」

「夢?同じって、お前……。」


新たな生命に、祈りを。
新たな生命に、祝福を。

注がれた聖水に、腹部を撫でる、指。


綺麗な世界、白い羽。



『それはあなたの、望むままに。』



最後に俺は、何を願った?


「……もしかして、とんでもない状況じゃないか?」

「大丈夫ですよ、機関関係者しか知らないですから。」


いや、そういうことじゃなくて。


「俺、男。」

「そうですね、でも―――――、」


夢の中と同じように、長い指が優しく腹部をなぞる。


「嬉しい、ですよ。僕は、すごく。…あなたは?」

「言わなくても分かるだろ。」


そうですね、と笑った古泉と、俺はきっと同じ顔をしていた。





「元気に産まれてくれるといいですね、僕たちの、子供。」


「さて、ハルヒに何て説明すっかなー……。」










それは幸せな、悩み。
俺たちが大学三年生になった、春のことだった。




















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とりあえずハルヒの力で妊娠。
産むの?産むのか?家族書くべき?むしろ放置すべき?









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