詩篇詠隊







カラフルに光るステンドグラスに、マリア様がイエス・キリストを抱くイラスト。

床を、光が照らし出す。


木の椅子、赤い絨毯、大きな十字架、小さなオルガン。

狭くも高い天井、ここは、教会。





ああまた夢なのか、と俺はぼんやりと鮮やかな色合いのマリア様を見つめていた。


「おかあさん、」

「……へ?」


後ろから、幼い少女の声。
舌足らずなその声は、ほんの少しだけ、懐かしい。


「みくる?」

「おかあさん、」


振り返るとそこには長い髪を二つに括った、五歳くらいの幼子。
くるくるとした大きな瞳が、じっとこちらを見つめている。

ふわり、と笑って少女はもう一度俺を呼んだ。


「おかあさん。」


多分、みくるが成長したらこの姿になるんだろう。
ここまで髪を伸ばすなら二つに括るんじゃなくてポニーテールにするかな、俺だったら。

ああ今から可愛い髪ゴムでも探しておこうか。


「おかあさん、あたしね、」

「うん。」

「あたしね、―――――なんだって。」


にこにこと笑うみくるの声が、聞き取れない。


「もう一回、言ってくれるか?」

「うん、あのね、あたし、―――――なの。」


聞き取れない。


「だからね、中学生になったらね、―――――なんだ。」


どうして、聞き取れないんだろう。



『禁則事項です。』






懐かしく大人びた声が、耳朶をくすぐった。












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「みくる、」


古泉が手を伸ばすと俺の腕に抱かれていたみくるは顔をくしゃ、と歪めた。
あああ、泣く寸前の表情だ。


「古泉、とりあえず髪を下ろせ。誰だか分からないんだろうから。なーみくる。」


少しだけ悲しそうな表情を浮かべた古泉の髪型はオールバック。
普段はあの鬱陶しい前髪だから、小さな赤ん坊には別人に見えるらしい。

妹も俺が伸びきった髪をばっさり切ったときはいきなり泣き出したしな。


いや、あれは中々ショックだった、兄として。


「……世の中のお父さんたちの気持ちが分かった気がします。」


あー落ち込むなよ、お前は子供か。


「可愛い妻と可愛い娘に蔑ろにされてるんですよ、悲しむ以外に何をすればいいんですか。」


娘が可愛いのには同意するが俺が可愛いというのはどうなんだろうな。
あれか、とうとう目が腐ったか。


「失礼ですね。僕の目は正常ですよ。」


スーツから着替えることもせず、古泉はその場で髪をぐしゃぐしゃにした。


「みくる、お父さんが帰ってきましたよ?」

「あー、」


もみじのような小さな両手が宙を彷徨う。


「良かったな、分かったみたいだぞ。」

「うーあー!」


俺は古泉にみくるを預け、鍋を火にかけた。
すぐに飯にしよう、俺も腹減ったし。


「キョンくん、」

「んー?」


まだお前はそのあだ名で俺の名を呼ぶのか。


「いい加減、僕のこと名前で呼んでくれませんか?」

「呼んでるじゃねえか。」


いいえそうではなくて、と続けようとするので俺はとにかくその話題を変えようと口を開く。

まだ『一樹』なんて呼んでやらん。


「今日さ、夢を見たんだ。」

「話を逸らしますか。」


逸らしますよ。ええ、逸らしますとも。
じとっと見つめられている気もするが、きっと気のせいだ。


「多分、みくるは中学生になったら俺たちに会いに来るんだ。」

「………どういう、ことですか?」


全部、俺の勘であって、真実ではない。

不思議な夢を見たからって、それが未来に関係しているとは限らない。
それでも。


「勉強を教えるのはお前の役目だからな。」

「それなら、任せておいて下さい。」


まだまだ先になるだろう。
けれど、もし、お前が昔の俺たちに会ったなら。


「ハルヒに散々いじられるんだよな、みくる。」

「あー、……検討を祈るしかないですね。」





そうだな、今はひたすら、甘やかして育ててやろう。










「さ、飯にするか!」




















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明日は髪ゴムを買いに行こう。









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