連祷教区







大きなビルの間にひっそりと建っている、小さな建物。
初めて見る、木で出来た建物。

窓にはめ込まれた硝子がとても素敵で、思わず扉を開いていた。


お父さんなら頭がぶつかってしまうのではないかと思うほどに低い扉をくぐれば、ふわ、と木の香りがする。


「ふわあ……、」


きらきらと光るステンドグラスが綺麗で、赤い絨毯を照らす光が鮮やかで、幻想的で。

まるで夢の中の世界みたいだった。


「今日から、だな。」

「ひえっ?」


後ろから声がして、振り返ったらそこには優しく笑うお母さんの姿。


「頑張れよ、大変なことも多いとは思うが。」

「お母さん?」


あたしはもう過去にいるはずなのに、どうしてお母さんはここにいるんだろう。


「毎日が騒がしくて、ホームシックになってる暇なんかないからな。」


降り注ぐ太陽の光が、お母さんを照らし出す。


「帰ってくる日まで、のんびり待ってるよ、みくる。」


瞬きと同時に、部屋の天井が見えた。
……今のは、夢?

















「ありがとう、お母さん。」


今日から、頑張ります。














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涼宮さんに連れられて訪れた文芸部の部室。
あたしは、驚くことしか出来なかった。

髪は短いけれど、窓際に座って本を読んでいるのは有希お姉さんで、小さい頃によく遊んでもらった覚えがある。

目の前に立ってる男の子はどことなくお母さんに似ている。
親戚の人か何かかな?

涼宮さんは、小さい頃に見たハルヒお姉さんで間違いないと思う。
今は外国にいて、会う機会すらないけれど。



きっときっと、大丈夫。

ここなら、大丈夫。


「よろしくお願いします。」


お母さん、あたし、頑張ります。








ちなみに、その直後に涼宮さんが呼んだ彼の名前を聞いてあたしは本当にびっくりした。
今日だけでどのくらい驚いてるんだろう。

聞きなれたニックネーム。


お父さんがお母さんを呼ぶときは、もうずっとこれで。


「キョン!」


後で本名を聞いたらお母さんと同じだった。

表情はお母さんとは全然違うけれど、優しく笑う姿は全く違わなくて。


ああ、やっぱり本人なんだって。



今までお母さんに言われてきたことのほんの一部が、本当に少しだけ、分かったような気がした。

もしかしたらお父さんとも会えるのかな。
写真すら見せてもらえなかった、昔のお父さんに。


見せてもらえなかったってことは、あたしも一緒に映ってるのかも知れない。
帰ったら、全部見せてもらおう。

あたしは写真を撮って二十年も経ってないから、きっと事細かに状況の説明が出来ると思う。







これから何が起こるのか、すごく、楽しみ。


「うん、出来た。」


未来には届かない両親への手紙を小さな袋に詰めて、あたしは嘆息した。
三年後には、どれだけの多さになってるんだろう。

あたしのお土産は、この手紙。
あたしが何を思って、何を感じて過ごしていたのか、知って欲しいから。





お父さん、お母さん、もうしばらくはホームシックになることもないと思います。









だから、安心して下さい。




















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みくる視点。









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