洗礼告解







ふわふわと漂う感覚。
お母さんが言っていた、不思議な夢の話。

これって遺伝なのかな?
あたしも最近、不思議な夢を見ます。

今日はハルヒお姉さんがあたしの右、有希お姉さんが左で、三人手を繋いで歩いていたの。
メルヘンな感じの、可愛らしい道を、真っ直ぐ。


「みくるちゃんが選ぶのよ。」

「みくるが、選ぶべき。」

「きっと、上手くいくわ。」

「結果はきっと、満足できるもの。」


何を選ばなきゃいけないんだろう、と思ったところで手を離される。


二つに分かれた広い道。
どちらに何があるのかは、分からない。



「「さあ、選んで。」」





あたしは右足を、踏み出した。












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キョンくんがあたしの前で、ただ俯いている。


放課後、夕日の射し込む部室。
涼宮さんも長門さんも、古泉くんもいない。

キョンくんと、二人きり。


「泣いても、いいんです。」


ぎゅ、と結ばれた手の上に、あたしは自分の手をそっと乗せた。
白のレース、メイド服の袖が見える。


男の人の、手。
ほんの少しだけ細い、骨張った手。




小さく震える、キョンくんの手。


「あたししかいませんから。」


そして、どうか泣いて。
泣いて、泣いて、落ち着いたら。


「泣き止んだらでいいです。屋上に、行って下さい。」


あたしにはこれしか選べない。
けれどきっと、お姉さんたちが行ったように、満足の出来る結果になるから。

お母さんは幸せに、なるから。


「辛くて、苦しいことがあった次には、いいことがあるんです。だから、大丈夫。」


慰める役目くらい、あたしに譲ってね、お父さん。
あたしだって、お母さんの役に立ちたいの。


「…すみません、……おれ…………っ!」


あたしの手の甲に、ぽつ、と。
落ちた雫はキョンくんの瞳から零れていた。


「ゆっくりで、いいですよ。」

「……っおれ、すっげえ嫌な人間、なんです。こ、いずみ、が…、」


優しい、優しい人。
嫌な人間なんかじゃないって、あたしが知ってます。


「好きな人が出来たら、当たり前に思うことです。みんな、同じ。」

「でも、あいつは……、きっと!」


そんなこと、ないんです。

好きになったら、胸が苦しくて切なくて。
強くなる独占欲があって、ちょっとしたことに嫉妬して。


全部全部、キョンくんが体験したことだったんですね。

お母さんが、お父さんには内緒だって、言ったこと。
きっと古泉くんは、喜んでくれるだろうから。


「古泉くんは、キョンくんを否定したりしませんよ。」


だってお父さんは、お母さんのことが大好きだから。


「朝比奈さん、」

「大丈夫です。ほら、顔を上げて。…涙、止まった?」


目の端に溜まっていた涙をハンカチで拭って、あたしはキョンくんの両手を引っ張った。



空は、もう夜に近い。


「あの、」

「屋上に、行って。行ったら分かるから。」


古泉くんが待っている。
あなたを待っている。







「あたしは、願うだけ。」


あたしだけになった部室。

あたしが知っているものよりも古い形の携帯を操作して、表示した番号を押して耳に当てた。


「あ、もしもし、涼宮さんですか?」


有希も一緒にいるわよ、と涼宮さんは笑う。


「うまくいきますよ、きっと。」


だってあたしのお父さんとお母さんなんだから。


「明日は、いつもより幸せそうにしてるといいですね。」


小さく聞えてきた長門さんの声が、どこか嬉しそうで。


















見上げた夜空、その先の未来を思って、少しだけ笑った。




















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両親をくっつける後押しは娘の役目。









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