箱舟奇譚







暖かい光に包まれて、あたしはどこに行くんだろう。
オレンジ色に染まる空の向こう、真っ白に輝く道の上。

百合の花が一輪、咲いていた。


ああきっと、あたしが。
あたしが、導くんだ。

この夢は、夢なんかじゃない。

お母さん、あたしは。


全部、あたしが生まれるための。



花びらをそっと撫でると、花は小さな光になって消えた。










あたしは、きっと。













------------------------------












みんなと出会って三年。
涼宮さんの力が消えて、一年。

あたしは大学二年生になった。

だってあたしは、「朝比奈みくる」だから。


でも、もう帰らないと。
だって未来で、「古泉みくる」を待っている人たちがいる。

お父さんとお母さんが、待ってる。



毎日書いた、届かない手紙は袋に一杯詰まってるし、写真もたくさん入ってる。
もしかしたら、二人の知らなかった過去も、あるかも知れない。


「ありがとうございます。キョンくん、古泉くん。」


泣かないの。
笑って別れるの。

だって、また、会える。


次に会うのは二年後ですね。
お父さん、お母さん、生まれてくるあたしを、よろしくね。


「もう行くんですね。」

「はい。長門さんと涼宮さんにはもう会ってきました。
涼宮さんにはちょっとだけ嘘をついてしまいましたけど。」


でもきっと、分かってる。
キョンくんにも古泉くんにも伝えるつもりのないことを、言ったから。


『どうか、願って。』


きっと完全に失われたわけではない涼宮さんの力。


『願ったら、会えますから。』


そう、彼女が願ったから、あたしはここにいる。
未来人ではない、あたし自身が、ここにいる。

ハルヒお姉さん、久し振りに、会いに行きますね。


そしたら、全部話すの。
全部、全部。



きっと最後には笑って、知ってたわよって答えてくれる。


「また、会えるといいですね。」


会えるわ、絶対。
だから、そんな泣きそうな顔、しないで。


「二人とも、ずっと一緒ですよ。きっと。」


これは贈り物。
未来から、あなたたちの未来の娘からの、贈り物。



荷物は小さなカバンひとつ。
この中にあたしの全てが詰まってる。


「ありがとう。」


楽しかった。
幸せだった。



だからきっと、これからも。
















目を閉じて、もう一度開く。
涙はいらない、だって、あたしは。





―――――、












あたしの前に、立っていたのは二人。
少しだけ年を感じさせる、優しい笑顔。


「―――――おかえり、みくる。」

「―――っ、」


泣いちゃ駄目、駄目。
でも、前が霞んで、見えなくなって。


「大きく、なりましたね。」


もう、止まらない。


「た、だいま。……ただいま!」


お母さんの胸に飛び込んで、あたしは泣いた。
お父さんとお母さんの腕に包まれて、泣いた。

落ち着いたらね、聞いて欲しいことがあるの。
話したいことがあるの。



カバンの中に、一杯詰まって。


「お父さん、お母さん、大好き。」










ずっとずっと、大好き。




















-------------------------------------------------




アルバムには同じ写真が三枚ずつ。









ブラウザバックでお戻り下さい。