フラグメント
世界の色が変わった。
三年前から、灰色だけだった僕の世界。
ずっと閉鎖空間にいるみたいで、少しも好きになれなかった僕の世界。
今は、何て美しい。
嫌いだった世界を好きになれた。
嫌いだった神様も好きになれた。
世界が、色を、変えた。
それはきっと、あなたがいたから。
―――――あなたが、いたから。
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きらきらと光る世界の中心には、いつも同じ人がいた。
手を伸ばせば届く距離。
僕にとっては、ひどく、遠い。
僕自身は涼宮さんを神だと仰いでいるわけではないけれど。
でも、彼女に力があることは間違いではないから。
だから、僕にとっての彼は、手の届かない位置にいる。
神様の鍵。
彼はそれを否定するけれど、僕は真実だと知っている。
「僕の自叙伝にはきっと、あなたのことばかり記されるのでしょうね。」
白のポーンをひとつ進める。
「ああ、この前の話か?」
彼の進めたクイーンが僕のルークを連れ去っていった。
「覚えていて下さったんですか、光栄ですね。」
「と言うか何でお前の自叙伝なのに俺のことばっかりになるんだよ。」
僕がキングを前に出すと、彼は珍しく表情を驚きのものに変えた。
「僕の人生に、涼宮さんとあなたは必要不可欠ですから。」
僕に力を与えた人、僕の世界を変えた人。
いつになるか分からないけれど、きっと自叙伝を書くことになったなら、僕は。
僕が綴るのは、あなたへの想い。
かつん、と音がして白のクイーンが倒れる。
「馬鹿言うな。俺がお前の人生に関係しているのはゲームをしてる時だけだろうが。ハルヒは別だとしてもな。」
僕は微苦笑を浮かべてビショップを動かした。
そういうことにしておこう。
「おや、負けてしまいましたね。」
「そもそも勝つ気がないんだろうが。」
あなたと過ごす時間の方が大事ですから、とは言えずにやはり苦笑を返すだけ。
ゲームは苦手なんですよ。
「いつか、贈りますよ。僕の自叙伝。」
「いらん。」
「そう言うと思ってました。」
でもきっとあなたは読んで下さいますよね。
優しい、人だから。
きっと卒業して、会うことが出来なくなって。
忘れ去ってしまった頃に、届くでしょう。
それでもいいんです。
あなたへの想いを綴るのですから、僕が傍にいることなんて、ない。
世界を捨てて、それでも愛してると叫ぶことが出来たらいいのに。
―――――そんなこと、出来ないけれど。
「帰りましょうか。」
「おう。」
この世界は三年前から灰色に染まっていて。
何に感動することもなかったのに、今は違う。
鮮やかな夕陽、映し出す彼の瞳がきらきらと美しい。
この色を見せてくれたのは彼。
気付かないでもいいんです。
僕は苦しくない。
幸せなんです、あなたを好きになれたことが。
きっとこの想いを直接伝えることはありませんが、ずっと。
ずっと、ずっと、愛し続けるのでしょうから。
「また、明日。」
「ああ、じゃあな。」
明日も会える。
その事実が、僕の生きる糧。
僕はそれだけで、生きて、いける。
「愛してますよ。」
彼には、届かない。
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美しい人に手を伸ばすことさえ出来ない僕は。
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