世界が崩れる音を聞いた
ベッドの上で一人、携帯を握り締めて。
動悸が激しい、頭痛がひどく、眩暈がする。
それでも俺は眠れなくて、気絶してしまうことすら出来なくて。
「おはようございます。」
「こいずみっ!」
ふっ、と症状が軽くなるのを感じた。
「学校、行きましょうか。」
一つ頷いて、手近にある袖をぎゅっと握った。
古泉は斜め上で俺の方を見ながら微笑んでいる。
「……何だよ。」
「いえ、可愛らしいなーと。」
失礼な、と答えながらも手は離さない。
「行くんだろ。」
「大丈夫ですか?」
カバンを持って靴を履いて。
母親がリビングの扉から顔を出し、古泉に頭を下げた。
「行くしか、ないだろ?」
朝比奈さんも長門も、ハルヒだって俺を心配してくれている。
無理そうだったら休んでもいい、と。
週末の不思議探索も一時的に中止になって。
最初はその言葉に甘えていたんだ。
(でも、)
思い切り握り締めた古泉の袖にくしゃりと皺が寄る。
それでも俺は、手を離せなかった。
狭い路地を通り、出来るだけ下を見つめたままただ歩く。
ぐるぐると回る視界に何度となく吐き気が押し寄せるが、それを堪えて必死に足を動かした。
視界に映ったのは広い交差点。
ぱらぱらと歩いているのは北高の制服を着た生徒たち。
震える手を離し、古泉の横にで顔をしっかりと上げた。
「…大丈夫、ですか?」
「だいじょうぶ、」
だって、行くしかないんだ。
ハルヒが俺を心配するたびに閉鎖空間が発生して、そのたびに古泉は俺の傍から離れる。
俺は、鍵だから。
鍵はハルヒの機嫌を取ってなきゃいけないんだ、人権なんて、ありはしない。
『機関』の人間は少なくともそう考えてるだろう。
だから、だから。
進める足はやっぱり少しだけ震えているけれど、きっと大丈夫。
普通に振舞えばいい、ハルヒの前で。
そう、きっと、大丈夫だから。
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誰か助けて、と叫べばよかったのか?
それとも行かないでと止めればよかったのか?
そもそも俺が病気になった原因は何だっけ?
「く、かは……っ!」
トイレにうずくまって、もう胃液さえも出ない状況で咳き込んだ。
このまま倒れてしまえたらどんなに楽だろう。
病院に運ばれてしまったらどんなに楽だろう。
でも、それはきっと、叶わない。
いつまで続ければいい?
ハルヒの力が消えるまで?俺が鍵じゃなくなるまで?
それとも、
―――――死ぬまで?
震える手は止まらない。
死ねば全て終わるのだろうか。
世界は、崩れるのか?
死んだ先のことなんて気にしなければいい。
「こ、いずみ、」
じゃあ古泉は?
残された古泉はどうなるんだ?
『機関』から叱責を受けるのだろうか、それともハルヒの世界改変に巻き込まれる?
「こいずみ、」
そんなの、そんなの駄目だ。
俺は生きなきゃならない。
俺は、俺は。
「こいずみ。」
なあ、誰か、助けて。
たす、けて。
「―――――キョンくんっ!」
がたん、と大きな音がして。
振り仰いだそこには、真剣な表情をした古泉の姿があった。
「古泉、」
「ごめんなさい、ごめんなさい!」
包まれた体が、暖かい。
古泉の背に腕を回したら、肩口からすすり泣く声が聞こえた。
「やっと、許可が下りました。……病院、行きましょう?」
「え、」
「もう悩まないでいいんです、苦しまなくていいんです。だから、キョンくん、」
そんなに強く抱きしめるなよ、痛いからさ。
なあ古泉、お前はそれでいいのか?
俺は、構わないけど、さ。
「こいずみ、」
次、俺がお前に会うのはいつだろう。
何でかな、もう会える気が、しないんだ。
古泉の制服を握り締めて、俺も一緒に泣いた。
制服のシワは気にしないことにした。
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俺が知る最高のバッドエンド。
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