アルディ


カウス・メディア艦隊第三会議室。
この場にいるのは椅子に座る師団長、幕僚総長、情報参謀、補給部隊長官、そして俺、作戦参謀。

戦争が終わって三ヶ月。
事後処理も一段落した今日は休日で、割と平和な今では作戦会議すら必要ない。

ではどうして会議室にいる?


涼宮ハルヒ師団長閣下による職権乱用に決まってるだろう。

まあ、一番狭い会議室、というのは良心的だと思うがな。


「何よみくるちゃん、もう酔っちゃったの?」

「まだいけますよぉ!」


けたけたと笑いあう二人(朝比奈さんも、である)の横で、長門はひたすらコップの中の液体を飲んでいる。
飲み干しては注ぎ、飲み干しては注ぎ。

辺りに広がるのはアルコールの香り。
俺の手元にも古泉の手元にもビールの入ったコップが握られている。

五人の中心には大量の酒瓶。


所謂『飲み会』みたいなものである。


しかしSOS団で飲むのは三百年前の夏休み、あの孤島以来じゃないか?
ぼんやりとそんなことを思いつつも、ちびちびと酒を流し込む。

二十代にもなって酔った挙句に前後不覚、なんて洒落にならないからな。
朝比奈さんは昔より強くなったらしく、それなりに飲んでいるし、長門は相変わらず。

ハルヒは俺よりも少し酔っている。


神サマだったときは長門以上に強かったと思うんだがな、今では敵わないさ。







「……おい。」


左肩に何か重いものが乗っている。
三人娘は俺の前で飲んでいるから、答えは必然的に一人に絞られる。


「古泉、重い。」

「そんなに体重かけてないですよ。」


いや、絶対かけてる。
かなり重いぞ、お前。
人間の頭ってのは想像以上に重いもんなんだからな。

そんなことをぶつぶつと呟きながら、俺に寄りかかる古泉の顔を覗き見た。


「…………。」

「『顔が近い』ですよ、キョンくん。」


にへら、としまりのない赤い顔を晒しているのは紛れもない、古泉一樹。
カウス・メディア艦隊の幕僚総長殿で、俺の上役であり、SOS団最年長の男。

その手に握られたコップには半分以上も残った液体がゆらゆらと揺れている。


お前、確かそれ一杯目じゃなかったか?
いつの間に俺より飲んでたんだ?

完全に酔っ払ってるじゃないか。


「これ、ですか?はい、涼宮さんに注いでいただいた一杯目ですよ?」

「マジか。」


ええと、ちょっと三百年前を思い出してみよう。
ほら、あれだ、忘れもしない夏休みの初め、孤島に合宿に行ったときだ。

あのとき、朝比奈さんは早々に潰れ、長門は相変わらず。
俺とハルヒは酔っ払った挙句にそれぞれ古泉と長門に連れられて部屋に戻った。



古泉は、酒を飲んでいたか?



――――-A、飲んでいなかった。



「お前、弱いのか?」

「全然大丈夫ですよ?全く酔っ払ってません。」


いや、質問内容とずれてるぞ、話を聞け。

ハルヒが朝比奈さんときゃいきゃい騒いでいる。
おお、やっと女の子(?)らしい声が出たな。

それを眺める長門も少し、楽しそうだ。


「お前、もう酒はやめとけ。」


明日の午後からは普通に仕事があるからな。
程々にしておかないと二日酔いに悩まされるかも知れんぞ。


「そうですね。」

「うおあっ!」


ごつ、と音を立ててコップを置いた古泉は、俺の手を思い切り引っ張った。
顔面から古泉の胸元に飛び込み、鼻を打ったらしくちょっと痛い。



それよりも、


「何するんだ、零れるだろうが。」

「じゃあそれも置きましょう。」


にっこりと笑ってるつもりだろうがな、古泉よ。
やっぱりその笑顔はにへら、としか表現出来ないぞ。

ちなみにきちんと話してるつもりでも、何気に舌回ってないからな。
お前が飲んだのはコップ半分以下なのに、どうしてそんなに酔えるんだ。


引っ張られたままの手を離され、とりあえずコップを机の上に置いた、瞬間。

本当に瞬間のことだった。


「―――――古泉っ!」

「涼宮さん、ちょっと僕、彼を連れて行っても構いませんか?明日の午後には帰します。」


両足を一気に掬い上げられ、俺は自分のバランスを保つために目の前にある布をしっかりと掴んだ。
ちなみにその布は古泉の服の胸元。

非常に、ああ、非常に言いたくない状況だが、あえて説明しよう。



俺は今、古泉に横抱きにされている。





どこにそんな筋肉があるんだ!


「あしたもやすみにしてあげるから、しっかりはげんできなさいねー!」


こらハルヒ、酒瓶を振り回すんじゃない。
そして朝比奈さん、目を逸らさないで下さい。

何かもう、俺がいたたまれません……。


「では行きましょうか、キョンくん。」

「一応聞こう。…………どこへ?」


相変わらず俺は横抱きにされたまま、古泉の締まりのない赤い顔を至近距離で見つめながら問いかけた。


「それはもちろん、僕の部屋のベッドへ。」

「…………。」

「僕、少しでもお酒を飲むと理性が飛ぶんですよ。性的な意味で。」


ひとつ、言っておこう。





―――――誰か助けてくれ!











次の日、俺がベッドの上から動けなくなったのは既定事項ってことでいいんですかね?













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実は凄くお酒に弱い古泉くん。









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