さようなら、神様。

俺は今、幸せです。




フェリチタ


「作戦参謀、おめでとうございます!」

「幕僚総長とお幸せに!!」


廊下で誰かとすれ違う度にかけられる声はほとんど、…というか十中八九祝福の言葉で。

陰口とか嫌味を言われるに比べたらどんなに恵まれているだろうと思うけれど、それとこれとは話が別なのだ。
艦内どころか軍の人間ほぼ全員に知られているなんて、それほど恥ずかしいものはない。

ちくしょう、あいつら!
それもこれもつい先日、全艦に流された映像が原因だ。

多分俺の顔は真っ赤になっているのだろうが、そんなことを気にしている場合じゃない。
早々に仕事は片付けたし、後はとにかく部屋に引きこもろう。
俺は古泉と違って羞恥心というものをきちんと持ち合わせているからな!


ぱ、と目前に現れた手が俺の目を覆う。


「だーれだ!」


ハルヒの明るい声がして、周りのクルーたちのざわめく声が聞えた。


「……古泉、だろ?」

「おや、バレてしまいましたか。」


振り向けばそこには手を宙に浮かべたままの古泉と、笑顔のハルヒの姿。


「あんた、どこに行くつもり?」

「どこって、部屋に戻るんだが。」


そして不貞寝してやる。
これ以上の羞恥プレイは勘弁していただきたい。


「それは、いけませんね。」

「そうよ。やっぱり忘れてたわね、あんた。」


右腕を古泉にがしっと掴まれ、俺は廊下をずるずると引きずられながら元来た道を戻る羽目になった。


「ちょ、離せ!」

「お断りします。離したらあなたは逃げるでしょう?」


結局、俺は古泉と手を繋いだまま、という恥ずかしい状態で廊下を闊歩することになるわけだな。


「本当に覚えてないの?キョン。」

「だから何がだ。」


大仰にため息をついたかと思うと、ハルヒは第二会議室の前で足を止めた。


「開ければ分かるわ。」

「は?」


こんこん、とノックをすると中から朝比奈さんの返事。


「ほら、入りなさい!」

「うわっ!」


ぱぁん、と耳の奥に響いた音と共に金色の紙スプレーが頭の上に降ってきた。


「誕生日、おめでとうございます。」


右側から差し出されたのは可愛らしくラッピングされた小さなビン。


「……ありがとう。」


大勢が集まった会議室。
ああやっぱり幸せだ、なんて思うのは現金だろうか。








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部屋に辿り着いたのはもう深夜のことで。
手に持ったプレゼントの中で古泉のものだけをベッドの上に置いた。
後は、机の上かな?

今日中に確認するのは止めておこう。


「しかし、何でキャンディなんだ?」


無駄に高いものじゃなくてよかったとは思うが、古泉の意図がつかめない。
透明のビンの中で、ひとつひとつがカラフルな紙に包まれた飴がきらきらと光る。


「食べるの、勿体ないな。」


ぎっしりと詰まった飴。
あいつは、何を思ってこれを買ったのだろうか。


「………ん?」


きらきら光る丸いラッピングの中に、ひとつだけ妙な形をした包み紙があった。
可愛らしいラッピングを解き、それを手に取る。

飴ではない、何だろう…硬い何か。


両側を引っ張り、転がり出たのは銀色の。
包みの裏側には乱雑な(これでも丁寧に書いたのだろう)文字が並んでいる。


『外に出てみて下さい。』


俺が今日これを見つけてなかったらどうする気だったんだ、馬鹿が。
まさか昔の長門みたいに毎日待つつもりだったのか?

幕僚総長様が?馬鹿だ、馬鹿すぎる。


仕方がないから包みから転がり落ちたものを握り締め、スライドする扉の外に出た。


「ばーか。」

「開口一番馬鹿とはひどいですね。」


うるさい、馬鹿に馬鹿だと言って何が悪い。
握り締めた小さなものを古泉に突きつけた。


「回りくどいことすんな。」

「お気に召しませんでした?」

「……そうじゃねえよ。ただ、」


古泉は俺の手からそれを受け取り、掌の上で転がす。
察しろ、後生だから!


「ただ、何です?」

「…………お前が、嵌めろ。」

「了解しました。」


古泉は俺の左手を掬い上げ、銀色に光る小さな輪を薬指に通した。
包みから零れた銀色が、指の上できらきらと輝く。


「ぎりぎりだな。」

「でも、消えてないでしょう?キスマーク。」


古泉の肩を叩き、頬に口付けてから部屋に逃げ込む。
ああもう顔が熱い!


「ありがとな!」






扉の向こうから笑い声が聞こえた。













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笑うな、ばか。









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