ルーイヒ
大きくあくびをして自分の部屋の扉にカードキーを差し込んだ。
「明日のお休み、買い物に行きませんか?」
隣の扉の前で同じようにカードキーを差し込みながら古泉は言った。
「今からでも構わんぞ。まだ売店くらいなら開いてるだろうし。」
いえ、と困ったようにヤツは笑う。
「少し遠出がしたいんですよ。」
「遠出?どこに?」
古泉は口元に人差し指を当て、明日まで秘密ですと口元だけを歪めた。
「では明日の朝…九時ですね、ここで待ち合わせましょう?」
「ああ、分かった。」
「ではお休みなさい。」
「お休み。」
ちょっと恋人同士っぽくないか、何て心の中で恥ずかしく思いながら部屋に戻った。
疲れてるはずなのに、眠れそうにない。
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私服姿で艦内を闊歩、中枢に入り地上エレベーターを指差して古泉は微笑む。
「地球に行こうと思いまして、ね。」
「地球?」
「はい、では行きましょうか。」
ぐ、と思い切り手を引っ張られ俺はつんのめったが、古泉は相変わらず楽しそうで。
絡められた指を見つめながらそっと笑った。
ぴぴ、
聞きなれた音が喧騒の中で。
「………古泉。」
「はい。」
「何で俺たちっていっつもこんな目に会うんだろうな。」
「それは……僕とあなただからだ、と言っておきましょうか。」
ぴぴ、
情報班のカメラの音。
あれには苦い思い出が沢山あるんだ。
俺たちのプライバシーはどこへ!
「相手は、長門か?」
「違うでしょうね。今日は朝比奈さんとの演習があるそうですから。」
そうか、じゃあ。
「逃げられるな、長門がいないなら。」
「そうですね、長門さんがいないんですから。」
触れ合ったままの手を、今度は俺が思い切り引いて人込みの中に紛れる。
職業柄と経験から、人を撒くぐらい朝飯前だ。
……相手が長門やハルヒじゃない限り、な。
あいつらには一生敵う気がしない。
「休日まで撮られてたまるかっての。」
「せっかくの休日デートですからね。」
「あ、あのなあ!」
やっぱり買い物は建前だったんだな!
「たまにはいいでしょう?恋人とデートしたいと思っても。」
「………恥ずかしいヤツ。」
「あなた限定ですけど。」
余計に恥ずかしいだろうが。
かすかに頬に熱が集まるのをどうにか誤魔化しつつ、俺たちは地球に降りた。
「どこに行くつもりなんだ?」
「SOS団の活動場所周辺にでも。どう変わったのか、僕はまだよく見てませんし。」
そういえば俺もしっかりは見ていないような気がする。
高いビルこそ減ってはいるが、駅は未だに残っているし、店だってたくさんある。
「ボードゲームの店、あるといいな。」
「そうですね。」
三百年振りのデートにでも向かうとするか。
見上げた空は相変わらず青く、眩しくて。
隣にいるやつはいつもよりも幸せそうな笑顔。
今日は充実した休日になりそうだ。
繋いだ手は、解かないまま。
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今の幸せを、噛み締める。
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