アルディート


「右舷三十度、砲撃用意!」

「了解!右舷三十度砲撃用意!!」


三つも並ぶキーボードに指を走らせる。
スクロールする画面は緑色に発光する文章を延々と映し出し、また新たな画面を開く。

右側で通信が開いたような音がしたけれど、見ている暇なんてありゃしないさ。


「長門、戦況は。」

「第一シールド突破。第二シールドも時間の問題。」

『全艦作戦βに移行よ!!』


俺の台詞を取るな、涼宮師団長閣下様。
まあ第二シールド突破したらもう違う作戦に入らなきゃならんからな。

最後のキーをタッチして通信を全艦隊に繋げた。


「後方旗艦、情報参謀旗艦援護!これより戦況命令は情報参謀が行う!!」


よし、これで一段落と言っても構わないだろう。
ホルスターに銃は入ってる、内ポケットにはアーミーナイフが三本にピアノ線二メートル。


「古泉。」

「はい、お待ちしております。」





かすかなノイズの混じった声は、ほんのりと笑いを滲ませていた。







------------------------------







無人ドック、重なった金属の箱の後ろに俺はいた。
ここが待ち合わせ場所だからな、ちょっと埃っぽいが仕方ない。

そのうち古泉も現れるだろう、と思ったところでドック内の電気が点いた。


ぼんやりとした薄暗い光が、荷物が少なく剥き出しになっている床をゆらゆらと照らす。


「――――――、」

「…―――、―――――。」


ぼそぼそと話す低い声。


「――報告、――――――、が、」

「ならば、――――で、―――。」


断片的にしか聞こえないその声は、何かの報告のようだ。


「―――国の、―――涼宮―――、―――つ、」

「我が国にも、―――、戦争、―――り、――だろう。」


我が国、ハルヒの名前、報告事項に、戦争。
事態は飲み込めたがしかし。

……古泉は未だこの場に現れない。
独断専行をするに、十分な武器はある。

相手は少なくて五人、といったところだろうか。


「後で怒られるんだろーな。」


仕方ないか、適当に甘えとけば機嫌も直るだろ。



―――――がたんっ、



「あ。」


ホルスターから銃が滑り落ち、金属の床に落ちる音が大きく響いた。
これは、やばいかな?


「誰だっ!?」

「俺の顔見たら分かりませんか?制服の色でも構いませんけど。」

「―――――参謀、作戦班のやつか。」


まあ間違ってないけどな、とは言わない。
全く、諜報員なら各参謀の名前と顔ぐらい覚えとけよな。


「殺せ。」

「「「「「アイ・サー。」」」」」


揃った声と共に、五人の男が持ち上げたのはサブマシンガン。


「げ、」


箱の後ろに逃げ込めば、大きな銃声が連続して響いた。
敵の数は七人、内五人がサブマシンガン所持。
敵=生け捕りが俺のモットーだけど、さすがに一人でこの人数は無理があるか?


早々に銃声が、止んだ。
……弾切れか?


「うおっ!」


後ろからの回し蹴りをしゃがみ込んでよけ、胸元のアーミーナイフを投げる。
かっ、という小気味良い音がして箱に刺さった。


『作戦終了!!』


放送からハルヒの元気な声が聞こえ、数人の男が顔をしかめた。


「スキあり!」


一人の肩に銃を当て、ゼロ距離発射。
崩れ落ちたやつの後ろの男が大きく拳を振り上げたので、グリップで鳩尾を強打。
飛び掛ってきた男を避け、銃の引金を引く。

弾丸は一人の膝の骨を砕き、これで三人戦闘不能。


繰り出された下段蹴りを避けるついでに男の顎を蹴り上げ、箱に刺さったアーミーナイフの柄に足をかける。
飛び上がった瞬間に抜けたそれは蹴りやった俺の手元に。


ドックに積み重ねられた荷物の上、残りは後、三人?



―――――がしゃ、



弾丸の装填音。
後ろには、サブマシンガンを構えた髭面の男。

荷物の上は身を隠すところもなく、だからと言ってどちらかに降りれば攻撃は免れない。


(……どうする、)


もしかして俺、絶体絶命?
銃の引金に指をかける。


「全く、あなたはいつも危ないことばかりしますね。」


柔らかな声と共に男が二人、金属の床に倒れた。


「―――――助かったよ。」

「いえいえ、あなたの危機でしたら僕はどこにだって馳せ参じますよ。」


高い位置から一人残った男に目をやると、そいつはゆるゆると両手を上げ、武器を全て床に落とした。

後のこと?法務局に任せて置こうじゃないか。
俺たちの仕事は捕まえるまで、裁くことは出来ないしな。


「お前、何でこんなに来るの遅かったんだ?」

「諜報員を見つけまして。法務局の方に受け渡してたんですよ。」


………何人いたんだ、隣国諜報員。
呆れ返っている俺の腕を、古泉は思い切り引いた。


「危ないだろうが!」


よろけたぞ、盛大に。


「どこも、怪我してませんね?」


紅茶色の瞳が真っ直ぐに俺の瞳を射抜く。
心なしか掴まれた腕も締め付けられているような気がした。


「してねえよ。」

「あなたはもう神サマじゃないんですから、怪我しても治らないんですよ?」

「分かってるって!」


再び口を開こうとした古泉を、今度は俺が引き寄せた。


「ん、」


ふわり、広がるのは甘い香り。
一瞬だけ触れさせた柔らかい感触に、腕の拘束が緩んだ。


「じゃあ俺、ちょっと用事!」

「あ、勝手にキスしておいて逃げる気ですか!?」


少しだけ振り返ったら、廊下の真ん中で真っ赤になっている古泉と目が合った。
どうやら、まだ俺の方が上手らしいな。

口元が綻ぶのを抑えきれないまま、俺は廊下を軽やかに走り抜ける。



火照った頬は、まだ少し熱いまま。













-------------------------------------------------


捧げもの。









ブラウザバックでお戻り下さい。