優しくて、柔らかくて、美しく愛おしい記憶。
嬉し泣きで人間はここまで泣けるのかって思った。
暖かな光、甘い香り。
小さな手が、俺の両手を包み込む。
ありがとう、ありがとう。
それは俺が言いたい言葉。
こちらこそ、ありがとう。
俺を幸せにしてくれて、ありがとう。
これからもずっと、美しく愛おしい記憶よ。
聖告創世
夏の暑さも過ぎ去り、少しだけ過ごしやすい季節になった。
「長門。」
「任せて。」
まだ何も言っていないのだが長門は理解したらしく、頷き携帯を開いた。
「……メール、ですか?」
「今朝届いた。」
受信ボックスにはハルヒの名前。
久し振りの連絡になるな、今はフランスにいるんだったか?
『みくるちゃんの誕生会までには戻るから、時間教えて!』
……あれ。
「長門は何て返した?」
「午後五時、待っている、と。」
一ヶ月前は仕事が忙しいって騒いでた気がするぞ。
三ヶ月前は、一年中ほぼ休みなしですねーなんてテレビで答えてたし。
「一週間で五十着仕上げたって話を同僚に聞きましたよ。」
「正確には五十二着。」
無理矢理休みを作った、と。
「デザイナーってそんな一気にデザインが出来るもんなのか?」
「普通は出来ないんじゃない?まあ、あたしのみくるちゃんへの愛が勝利したのよね。」
ひょいと顔を覗かせてそう答えたのは噂の張本人。
お前、五時までに来るって……今はまだ午前中だぞ。
「有希にメール送ったときにはもう日本にいたのよ。」
左様ですか。
「では二人に頼みましょうか。」
「そうするか。」
キッチンに大量の道具を並べ、布を被せる。
一部は長門から借りたものだな。
それらを見られないよう、リビングの扉を閉めて二人に向き直った。
「誕生会はナイショなんだ、五時までに準備を済ませておくから、それまでみくるを外に連れ出しておいて欲しい。」
「なぁんだ、そんなこと。で、今から?」
「出来るだけ早くお願いします、涼宮さん、長門さん。」
ハルヒは長門を連れてみくるの部屋に走っていった。
家は狭いからな、転ぶなよ。
「さて、頑張ってくれるよな?」
「それはもう、僕の持てる力を全て使わせていただきます。」
まあお前の技術などたかが知れてるんだけどな、と言ったらひどいですね、と笑って返された。
残り時間は七時間とちょっと、かな?
今年で十三歳になるみくるは来年から三年間、俺たちの傍から離れる。
来年から三回分の誕生日を、俺たちは祝えないんだ。
だからこそ、今年は盛大に。
「凄いですね。」
「ん?」
野菜の飾り切りをしている一樹が、俺の方を見て感嘆の声を上げた。
「ケーキのことですよ。」
「ああ、これか。」
残り一時間になってやっと完成したケーキは、ふわふわのスポンジに淡いピンクのクリーム。
苺はふんだんに使われていて、ホワイトチョコのプレートには大きな文字。
そこまで大きくないが、四段重ねのケーキだ。
かなりの力作だと言っても構わないだろう。
テーブルクロスは新調した白、蝋燭は赤で統一。
SOS団全員集合での大きな誕生会。
高校時代の自分たちから考えると、まさか料理担当が俺になっているだなんて思ってもなかったさ。
クラッカーの準備はOK、料理自体も、並びも完璧。
まるで子供みたいにわくわくしながらみくるたちの帰りを待った。
帰ってきたら、誕生日おめでとうと笑いかけて抱きしめよう。
生まれてきてくれてありがとう、と。
四年分の、ありがとうを。
きっと俺は泣いてしまうだろうけれど。
絶対に、楽しいから。
五時まで、残り、三分。
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三年分の、おめでとう。
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