ゼクヴェンツ


俺はただぼんやりと、空を眺めていた。
風が、気持ちいいのに。


「キョン!何やってるの、早く戻って!!」

「そんなところにいたら、し、死んじゃいますよおおお!」


ああ、煩わしい。
そう思ってしまう俺は間違っているのだろうか。

ハルヒ、お前にだって俺は止められない。

せいぜい、……何回目だ?
9524…が、今回だから。

そうだな、9525回目のシークエンスで楽しんでくれ。

まあ、そこでもきっと俺は同じことを思うんだ。
今の俺と同じ行動をとったのは9525回中、ちょうど9000回目らしい。


「…そうだよな、長門。」

「そう。あなたがこの行動を取らなかったシークエンスは524回。
あなたが今まで、この状況に陥って尚生きていた確率は0.13%であって、1%にも満たないたった12回。」


詳しい説明を有り難う。

多分、この場にいる人間でそれを理解したのはハルヒ以外の二人ぐらいだろう。
例の八月を過ごしてきたワケだしな。


「じゃあ長門。そのたった12回の中で俺が自殺した確率は何%だ?」

「100%」


ああ、やっぱりそうなのか。

きっと俺の自殺の理由は全て同じ。
だからこそ俺は今、ここにいるんだ。


「何を言ってるのかさっぱり分かんないわ!
キョン、そこから戻りなさいっ、団長命令よ!!」


すまん、ハルヒ。
それは聞けないんだ。

SOS団は好きだし、勿論メンバーだって全員好きだ。
毎日が楽しくて仕方がなかった。

疲れはしたけどな。


でも、もう無理だ。


自分にはポーカーフェイスなんて芸当、到底出来ない。
お前を心底尊敬するよ、古泉。


「最期に、言いたいことがあるんだ。」


長門が目を瞠ったように感じた。
今までのシークエンスではなかったのか?

それなら俺はとんだ臆病者だな。


「ハルヒ、俺が好きなやつ、知ってるんだろ?」

「……当たり前でしょ。あんた、隠し事、下手くそなんだもの。」


そうなのか。
知っていて、それでも黙っていてくれたんだな。


「恋愛にまで手出ししないわ。」

「でもそいつは俺のことが嫌いなんだ。きっと憎んでる。
そりゃあ神様よりも強烈にな。」


全員がただ黙っている。
俺だって女々しいと思うさ。
こんなことが理由で自殺、なんて、失恋した女みたいだからな。

いや、失恋、は間違ってないか。


「もう、耐え切れないんだ。
一緒にいるだけでつらいから、だから俺は、死ぬんだ。」


そして刻み付けるんだ。
俺のことを、忘れられないように。


「待ちなさい、キョン!!」


今にも泣きそうなハルヒ、すでに泣き崩れている朝比奈さんに悲しげな表情の長門。
俺は何とも言えない顔をした古泉に向かって、笑った。


「………っ!」

「好きだよ、古泉。」


瞳に浮かんだ絶望を見届けて、俺は空へとダイブした。


「待ってくださいっ!!」


最期にお前の声が聞けただけで、満足だよ。













―――――ぐしゃり、

























その音はハルヒが手元にある紙を握り潰す音だった。


「……最っ高よ、キョン!」


ハルヒはフェンス越しに俺を見下ろす。
俺はというと、ふっとい命綱一本で屋上から宙ぶらりんである。

怖かったし、全体重を支える綱が胸とか脇とかに食い込んで痛い。

朝比奈さんも笑顔で駆け寄ってきた。
その後ろには握りしめた拳から親指一本を立てている長門。

そんな仕草を誰に習った、長門よ。

女子三人掛かりで引き上げてもらい、やっと地面に足を着いた。
うん、地面万歳。

古泉はひたすら固まっている。
まったく、仕方のないやつだ。


「ナイス演技よ、みくるちゃん!有希もさすがね、
あたしには全然分からなかったけど。」

長門は俺たちの死角から大きな看板を取り出して古泉に見せた。


『ドッキリ大作戦☆』


…長門、だからそれは誰から習ったんだ。


「用意周到ね!さすがSOS団の団員よ!!」


ガッツポーズを決めるな、三人娘よ。
一番頑張ったのは俺だ。


「じゃあ種明かしも済んだし、あたしたちは先に部室に戻ってるわ。
今度ファミレス奢りだからね!」


分かってますよ、涼宮閣下。


「よろしい。さあ戻るわよ、みくるちゃん、有希!」


そして嵐は去った。


「え、と……これ、は、」










さて、古泉一樹よ。

まずは俺からの大告白の返事でももらおうか。













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ゼクヴェンツ→ドイツ語で『シークエンス』









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