絡めた指先
床に散らばった衣服。
それに紛れて見覚えのある赤い小さな瓶が見えた。
ベッドから手の届く位置にあったから、つまみあげてみた。
中にはどろりとした赤、というかピンクに近い液体。
彼の妹さんのものらしい。
いつの間にかブレザーに入っていた、と見せてもらったから知っている。
多分、ブレザーを放り投げたときにポケットから落ちたのだろう。
もう一度振るとそれはやはりゆっくりと動いた。
固体に近い液体だ。
蓋の部分をくるくると回せばそれに筆がついてくる。
筆、よりも刷毛と言った方が正確だろうか。
そ
の刷毛にはべったりとショッキングピンクの液体がこびりついていた。
つん、と香るのはシンナーの香り。
どうして女というものはこんなものを爪に塗り付けるのだろうか。
確かマニキュアを塗ると爪が呼吸できなくなるから腐ってしまう、なんて言っていた気がする。
それを言ったのは彼で、僕も彼もそんなことほとんど信じてはいないが。
まあ、塗りっぱなしで落とさずに過ごしていればさすがに爪も腐り落ちるかも知れない。
知らなくてもいい無駄な知識だ。
と、そこまで考えて隣に眠る彼に視線をやった。
未だに起きる気配はなく、幸せそうに眠る彼。
細く、長く、美しい指が僕の枕を掴んでいる。
ああ、何て愛らしい!
形のいい爪は手入れを怠っているらしく、伸びっぱなしだった。
……爪を綺麗に整える彼なんて見たくはないし想像すら出来ないけれど。
むくむくと沸き上がってくるのは幼い頃に捨てたと思っていた悪戯心。
大丈夫、除光液ならある。
汚れを落とすのに、たまに役立つからであって、他に理由はないが。
そっと彼の手を取って、小指の爪に目に痛い色をした刷毛を滑らせた。
液体を見る限りでは濃い色だと思っていたが、塗ってみれば薄い紅色で美しかった。
彼の指に、よく似合う。
調子にのって他の指にも同じように塗り付け、ぱたぱたと早く渇くように手で風を送った。
「綺麗な指、ですね。」
彼は目覚めたら怒るだろうか、呆れるだろうか。
どちらの反応でも面白いことには変わりないのだけれど。
小指の爪にキスを落としてマニキュアを彼のブレザーの上に投げる。
布に遮られ、こつんとさえ音を立てなかった瓶は中の液体を減らした様子もなくただそこにあった。
「気は済んだか?」
「……やっぱり起きていたんですね。」
くすくすと笑う彼の瞼にキスを落として。
くすぐったそうに身をよじる彼の左手には淡いピンクの爪紅。
「ちゃんと落とせるんだろうな?」
「僕が落としてあげますよ、だから……。」
まずはその見返りを下さいと言えばやはり彼は笑った。
「先払いなのか。」
「いいえ、前金ですよ。」
勿論、後でしっかりといただきます。
甘ったるいキスを、あなたから。
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いっちゃんの本音がちらほら。
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