グローム
光が一瞬だけ部屋を照らして、獣の唸り声が遠くに落ちた。
何度も何度も、真っ暗な部屋を照らす光。
目をしっかりと閉じていても瞼の裏に感じる稲妻。
自分の膝を抱き抱えてひたすらに獣が通り過ぎるのを待つ。
やっと光と音の時間差がなくなってきたばかりだから、当分は過ぎ去らないだろう。
ざあざあと雨の降る音、囁くように聞こえる人の話し声。
ああ、今、は、昼休み。
長門は未だに来ていないらしい。
時計を見たら昼休み終了まで後五分だった。
部室に誰も訪れない休み時間。
俺にとっては好都合なはずなのに、どこか寂しかった。
大丈夫、大丈夫。
後二時間耐え切れば人が来るし、雷だって聞こえなくなっているはずだ。
稲妻が落ちる音は、地響きに変わる。
近、い。
どうしよう、怖い。
昔からどうしても雷が苦手で、それを馬鹿にされたくないから人前では強がっていた。
それでも、怖いものは怖くて。
気付いたら、雷の鳴る日は一人、部屋に閉じこもるようになっていた。
今のように膝を抱えて、床に小さく丸まって通り過ぎるのを待つ。
―――――誰か、
声に出して呼びたいのはただ一人。
抱きしめて、くれたなら、きっと、怖くないのに。
でも俺にはプライドと言う非常に厄介なものがあって。
呼びたい、呼べない。
高校生にもなって雷が怖い、とか。
女子なら可愛いものだが生憎俺は男だ。
助けて、怖い。
どの場所が安全でどの場所が危険か、なんてことは関係ない。
どうしてだろう、怖い。
「こ、………。」
鼻がつんとして、目頭が熱くなって、喉が震えた。
何で泣きそうなんだよ、俺。
「こ、いず、み。」
スーパーマンみたく助けに来いよ。
ああもう、こんなことで泣くようなやつは女として生まれてくればよかったのに。
そしたら、可愛らしく彼氏にでも縋ればいい。
「こいず、み。」
あいつは今授業中だ。
当たり前じゃないか、今日はサボりの俺とは違う。
どん、と地鳴りがした。
雷が、近い。
光って、床に響いて体が揺れて。
こいずみ、こいずみ、こいずみ!
こわいこわいこわいからはやくきて。
たすけてこいずみおれをだきしめてあんしんさせて。
こいずみ、こいずみ、
「い、つきっ!」
「お呼びになりましたか。」
優しい声が聞こえた。
困ったような表情を浮かべて俺の頬に手を伸ばす。
「大丈夫、ですか?」
「お前……どうして、」
温かい掌。
安心する人の声。
「昼休みに教室に行ったら今日は休みだと言われまして。
……何となく、ここにいるような気がしたんですよ。」
お前、一体どこのヒーローになるつもりだよ。
名前呼んだら来るとか、有り得ないだろうが。
「雷、怖いんですか?」
「………ちょっと胸貸せ。」
問いかけには答えずに目の前にある古泉の胸元へと飛び込んだ。
背中に強く手を回して、耳を心臓の上に押し当てる。
いつもより少し早い鼓動が心地よくて、擦り寄ったらさらに鼓動は速くなった。
「古泉、も少し、このまま……。」
自分の背中に温もりを感じた。
腕が回されたのだろう。
そして古泉は苦笑混じりに俺に言った。
「出来れば先程のように『一樹』と呼んでほしいのですが…。」
聞いてやがったのか馬鹿野郎!
雷が通り過ぎたらもう一度だけ呼んでやるか、と俺はゆっくりと目を閉じた。
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もう雷の音は聞こえない。
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