臆すること勿れ


風に、星に、月に。
太陽に、海原に、大地に。
この世界を包み込む全てのものに、なりたいと思った。

風は強く吹き、星は美しく輝き、月は満ちては欠ける。
太陽は世界を照らし、海は何度も地上に降り注ぎ、大地は全てを支える。


この世界は、何て、美しい。


地球に人間はいらないのでは、と思う。

こんなに美しいものを汚してしまうのだから。
こんなに美しい世界を壊してしまうのだから。


くすくすと笑い声が耳元を駆けてゆく。


「でも人間、嫌いじゃないでしょう?」

「…あなたは人間である彼に執着してる。だから、人間は好き。」


あら、そうなの?と上がった声はひどく楽しそうだった。


「あ、もしかして。」

「ええ、そうなんです。」


僕は続きの言葉を聞きもせずに肯定。

どうせ、間違っていない。


「ふうん。古泉くんは風だから、どこにでも行けるのよね?」


探していたんでしょう?と問われて僕は苦笑を返すしかなかった。
そんなに分かりやすい態度だったろうか。


「私たちと違って、生まれ変わってしまったんですよね……。」


柔らかに、けれど寂しそうに笑う姿。

彼がいたら、きっと、もっと、楽しかった。


「ねえ古泉くん、人間に、なりたい?」

「人間にですか?」





風に、星に、月に。
太陽に、海原に、大地に。
この世界を包み込む全てのものに、なりたいと思った。

ずっとずっと覚えていたくて。
彼が生きる世界を、ずっとずっと見ていたくて。


だから僕は、世界を駆ける風になった。


人間に戻ったら全てを忘れてしまうのだろうか、と。
怖く、なったから。


駆け抜けた大地には長門さんがいて、朝比奈さんがいた。
涼宮さんが笑いながら、僕を、見た。



あたしは神になった、みんなは風になった。
キョンは、人間に、生まれ変わったわ。



ああならば僕は彼の成長を見守ろう、と。
覚えていないだろうけれど、それでも。















昔のことを思い出して、懐かしく感じる。

そうか、涼宮さんは神様だから、僕を人間にすることぐらい、簡単にできる。
記憶さえも、消さずに。


「僕、は……。」

「いいわ、分かってる。
古泉くん、キョンのところに行ってみなさい。」


団長命令よ、と優しい声が降ってきた。






世界に、なりたかった。
僕の知る彼がいなくなった、世界に。

でも、本当は。


「キョン……くん、」





―――――あの頃に、戻りたくて。





ありがとうございます、と礼を言って僕は人々をすり抜けて走る。

春一番かしらね、という人間の声が後ろから聞こえた。


















黒よりも少し茶に近い、真っ直ぐな髪。
彼の周りをくるりと回れば地面に落ちた桜の花びらが円を描いて舞い上がった。

少し、驚いたような顔をして、ふわりと笑う姿、は。


「古泉、か?」

「………!」


どうして。

だって僕は、風。
人に見えるはずが、ない、のに。


「ハルヒがな、三年前から少しずつ、記憶をくれたんだ。
何百年も前の、あの頃の。」


涼宮さん、が。

ああ何だ、初めから彼女は、そのつもりで。



彼が誰もいない空間に手を伸ばす。
僕の姿は、見えていない。

そっと彼の手を取れば、指先から自分に感覚が戻ってくる。
徐々に色付く世界。


「――――――こいずみ!」


胸元に飛び込んでくる人。
僕は彼と同じ制服を着て、その人を抱きしめる。


ああ、ああ、満たされる。


「忘れてて、ごめん。待たせて、ごめん…っ!」


ああ何て、愛しい。


「愛してますよ。」






















ありがとうございます、神様。






僕たちは、幸せです。













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これからまた、よろしくお願いします。









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