Lasciare cadere
俺は、この世界の古泉が嫌いだ。
俺はあいつが好きで、あいつはハルヒが好き。
そしてハルヒは誰も好きじゃない、むしろ俺の方が好きときた。
報われない片思いなんてしたくはないが、だからといって人の心を改変するのは好きじゃない。
神様の特権?
くそくらえだな、それこそ。
だから、俺はこの世界の古泉が嫌いだ。
「いい加減この世界にも飽きたわねー。」
窓から身を乗り出してハルヒはぼやいた。
落ちるぞ。
俺は持っていた白い駒を盤上に置き、黒い駒を四つひっくり返す。
ふと上げた視線の先で、古泉の動きが止まった。
あーあ、動揺してやがる。
かわいそーに、笑顔が引きつってるな。
まだまだ勉強不足の経験不足だな、古泉よ。
ちなみに朝比奈さんの動きも止まっていた。
ああ、何をしていてもかわいらしいお人だ。
長門も珍しく本から目を離し、ハルヒの動向をじっと見守る。
「ねえ、キョン。」
「何だ、また何か思いついたか?」
ハルヒはいつものように不機嫌な表情を作っているが、目の中は至極楽しそうだ。
この表情を見たのは一年前くらいか?
「今度はどんな世界がいい?」
視界の端で古泉の表情が固まった。
朝比奈さんの顔は青ざめていて、長門は諦めたかのように本に目を戻した。
「長門、ハルヒのこの台詞が何回目か覚えてるか?」
「七十八回目。」
やっぱり覚えてるものなのか。
さすがに宇宙人の記憶までは消せないらしいな、ハルヒも。
「だとよ。お前は俺が七十八の意見を持っていると思うか?」
「思わないわ!」
即答とは何と手厳しい。
本気で拗ねるぞ。
「でも貴方は涼宮ハルヒの意見に一度も答えていない。
よって、貴方は聞かれた数だけの意見を持っていなくても問題ない。」
「そーよね。じゃあ今回はキョンに意見を出してもらいましょ!」
あれ、マジか。
全ての決定権は俺にあんの?
「じゃあ……、」
ちら、と横目に見た古泉の瞳が、俺を軽蔑する色に染まっていたから。
「俺の好きなやつが、俺に落ちやすければそれでいいかな。」
後は自分で根気強く落とすさ。
どこのゲームだよ、それ。
「つまんないわねー。あ、でもキョンが男と付き合うのを見るのも楽しそうね。」
だろう、そうだろう。
まあ、俺が意見を言った時点でハルヒに決定権はないに等しい。
何て言っても神様だからな、俺は。
「キョン、もう許可は下りたわよね?」
「俺が意見を出した時点で下りたも同然だろうが。」
それもそうね、と言ったハルヒの声が、この世界で最後の声だった。
------------------------------
「キョン君、僕は、あなたのことが、好き、です。」
俺と古泉だけがいる部室。
口元が笑みの形を作るのを見られないように俯いて、小さな声で答えた。
「俺、も、好き、だ。」
ああ、やっと。
こいつは、俺の、モノ。
-------------------------------------------------
ラッシャーレ カデーレ
やっと、堕ちてきた。
ブラウザバックでお戻り下さい。