サルヴァツィオーネ
「あ、」
キョンが横で声を上げた。
どこか嬉しそうで、哀しそうな表情の横顔は女のあたしから見ても綺麗だった。
「雪だな。」
「ほんと、寒いはずよね!」
嫌になっちゃう、と呟いたらキョンは優しく笑った。
あんた、そんな顔も出来るようになったのね。
昔はしかめっ面ばっかりだったのに。
本当に、綺麗になったわ。
男の人には失礼かも知れないけど、ね。
「もう三年も経ったんだな。」
「…今日でちょうど三年目になるわね。」
月日が経つのは早い。
もうあたしたちが卒業してから二年と十ヶ月。
気付いたらあたしとキョン以外のSOS団員は残っていなかった。
多分、どこかにいるとは思う。
連絡は取れないけど、いつか街でばったり出くわしたりするんだわ。
みくるちゃんはグラマラスな美人さんになってるだろうし、有希もクールビューティーなお姉様になってるでしょうね。
有希、髪伸ばしたらきっともっと可愛いのに結局三年間あのままだったわ、残念。
髪、と言ったらあの頃の古泉君かしら。
前髪が長くて、うっとうしいんじゃない?って聞いたら微妙な笑顔を返されたわね。
あれは確実にうっとうしいって思ってる顔だったわ。
あの時キョンはあたしが机に散らかしたままだった赤いピンで可愛らしく古泉君の前髪を留めたのよね。
意外に似合ってたけど。
思い出しながら笑っていると、横を歩いていたキョンが急に立ち止まった。
「どうしたのよ。」
「今、古泉、が、」
思わずあたしも雑踏に目を走らせるけど、あの柔らかそうな髪は見つからない。
「すまん、気のせいだ。」
「キョン……、」
きっとそれは気のせいじゃないわ、だって今日は。
だからキョンに会いに来たのよ、絶対にそう。
気付いたら目から涙が溢れていた。
瞼の奥がじん、と熱くて、鼻がつんとした。
喉が痛い、涙が止まらない。
変なフィルターを被せたような視界の向こうで、キョンも泣いている気がした。
「何で、泣くんだよ。」
仕方ないでしょう、あんたが鈍すぎるのよ。
あんたたち、付き合ってたんでしょ?
あんた、あれから一度も泣いてないでしょ?
だからあたしが代わりに泣いてあげるのよ。
団長だから、SOS団がなくなってもあたしは永遠にあんたたちの団長だから。
だから、団員が泣けない時は代わりに泣いてあげる。
笑えない時は笑わせるし、怒れない時は代わりに怒ってあげるの。
あたしに泣いてほしくないなら泣きなさいよ、あんたがちゃんと泣きなさいよ。
あたしだって悲しいわ、悔しいわ。
でもあんたはその倍、悲しんで苦しんでるんでしょ?
じゃあ泣きなさいよ。
「ありがとう、ハルヒ。」
お礼を言われるようなことなんてしちゃいないわ。
だって団長だもの、当たり前よ。
「泣いたっていいのよ、泣きなさいよ。
あんたが全部受け止めたのは知ってるけど、泣いちゃいけないなんて誰が決めたのよ!」
「………泣いて、いいのか?」
「当たり前でしょう、馬鹿!」
やっとあたしの涙が落ち着いたと思ったら、目の前にいたキョンの瞳から大きな雫が零れ落ちた。
やっと、泣いたわね。
きっとあんたが見た古泉君は本物よ。
泣いてもいいって言ってくれたのよ。
いつもキョンの心配ばっかりしてたから、気になって来たのよね。
「さ、お墓参り、行きましょ。
持って行ってあげるんでしょ、そのマフラー。」
キョンは涙を拭いながらひとつ頷いた。
零れる涙の一滴さえ、美しく見えた。
ねえ古泉君、今日であなたが死んでちょうど三年ね。
やっと、あなたが一番愛した人が、あなたを想って泣いたわよ。
どこかで誰かが、ふわりと笑う気配がした。
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『古泉』と書かれた墓に、赤いマフラーが巻かれた。
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