「好きです。」


そう言われたのはもう十年前になる。
ああ、そんなに経ったのか、なんて感慨深く考える暇もなかった。

怒涛の毎日が、それでも幸せで。


だけど、


「奇遇、ですね。」

「……本当に、な。」





勤め先が同じ場所になるのは如何なものかと俺は思うわけです。










十年前から恋人、という関係になった。
五年前から一緒に生活するようになった。

俺はまあ、ハルヒのおかげでそれなりの大学に通うことになり、卒業して教師免許を取った。
まさか俺が教師になるなんて昔は考えもしなかったな。

古泉はこれまた物凄く有名な大学に行き、教育学看護学諸々を学んで養護教諭の免許を取った、という。

医者とか目指すと思ってたんだがな、俺は。


と、いうことで二人とも教師になって、二年間はそれぞれ全く違う学校で働いていたというわけだ。


「古泉。」

「はい、何でしょう?」


春先の体育館はひんやりと冷たくて、俺は微妙に縮こまりながら斜め上に目線を投げた。

高校を卒業してからまた少し開いた身長差は、今ではもう十五センチになっている。
俺は全く伸びなかったのに。


ああ、忌々しい。


「睨まないで下さいよ……。」

「仕方ないだろう。俺は聞いてなかったぞ。」

「僕だって聞いてませんよ。」


そりゃそうだ、言ってなかったからな。


「それは僕も同じですって。」


ざわざわと騒がしい始業式、女子生徒の視線は専ら古泉に向けられている。
そうだよなーハンサムフェイスは未だご健在だからなー。

ああ本当に忌々しい!


真っ黒なスーツに赤ネクタイの俺の横には柔らかな茶色いスーツに紺ネクタイの古泉が並んでいる。

始業式、体育館。
ここは俺たちがはちゃめちゃな出来事に巻き込まれつつも無事卒業した母校、北高である。

いやまさか古泉までこの学校に勤めることになるとは思ってなかったぞ。


どんな確率だ。


「やれやれ、これからよろしく頼むぞ。」

「はい、もちろんですよ。一緒に登校しましょうね。」


えらく嬉しそうに笑う古泉を、とりあえず後で軽く殴っておこうと思った。


「ハルヒに言ったら危ないな。」

「あー……涼宮さんなら乗り込んで来かねないですね。」


考えるだけで恐ろしいな、まったく。
力を失ってもハルヒ様はやっぱりハルヒ様だ。

そのうちバレそうな気もするがな。


ま、俺は生徒じゃないから怪我することなんてほとんどないだろうし、保健室を利用することもないだろう。







残念だな、古泉。











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「あれ、眼鏡ですか?」


次の日、もそもそと朝飯を食ってる古泉が寝惚けた表情でこっちを見ていた。


「……不本意ながらな、花粉症を発症してしまったのだよ古泉くん。」


それは大変ですねーとかやつは笑いながら言っている。
本当に大変なんだからな!

目が痒くてたまらん。死ぬ。
いっそ眼鏡にしてしまおうか、コンタクト面倒だし。


「何て言うか……、」

「何だよ。」


言葉を切って古泉は白米を口に運んだ。
目はまだとろんとしたままである。


「あれですね、眼鏡属性はなかったはずなんですが。」

「そうか、俺はお前の趣味など聞いとらんのだがな。」


あれか、目覚めそうだと申すか。
知るか、そんなの。


「軽く欲情しそうです。」

「よし、今日の夜飯はカップラーメンだな。」

「ああああすみませんすみません、謝りますから作って下さい!」


薄く開いていた目がかっと見開かれた。


分かりやすいやつめ。


「じゃ、俺は先に行くぞ。」


ほのぼのとした日常を演じてる場合じゃないっての。


「ええ、一緒に行きましょうよ。せっかくなんですから!」

「そうだな、遠慮しよう。保健医はそんなに早く行く必要もないだろ?」


と、いうことで行ってきます。
慌てて準備を済ませようとする古泉を置いて、俺は外に出た。



ああ、幸せってこういうことを言うんだなあ、なんて思う辺り俺も大概、毒されているのかもしれない。









さて、外で待っててやろうかな。













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毎日がそれなりに幸せ。









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