机の上に乗った可愛らしい柄の手紙。
ずり落ちそうになった眼鏡を指で上げながら軽くため息をついた。
その傍らには小さなメモ用紙。
『古泉先生にお願いします。』
横の席に座っている先生が「大変ですね」と声をかけてくれた。
本当に、大変です。
「キョン先生!」
眉間にシワを寄せるのを堪えながら何だ、と問い返した。
始業式から二ヶ月。
古泉のせいで俺の渾名はいつの間にか生徒の間にも知れ渡っていた。
くそう、古泉のやつめ。
「で、古泉に、か?」
「は、はいっ!」
目のくるっとした可愛らしい子が、ぱっと顔を輝かせた。
こ、断るに断れん…!
「……仕方ないな。」
「ありがとうございますっ!!」
甘い香りのする封筒を俺の手に乗せると、女生徒は一度だけ礼をして走っていった。
ああ、転ぶぞ。
女子高生の膝に怪我、なんてステータスにも何にもならないんだからな。
「これで、三枚目。」
ちなみに今日だけで、である。
そう、今日だけで三枚。
半年もすれば少しは沈静化するだろうか。
いや、してほしい。
いっそして下さいと頼みたい。
何が悲しくて自分の恋人に他の人からの手紙を渡さなければならんのだ。
しかもあの男は俺の目の前で堂々と読みやがる。
隠せ、せめて隠せ!
ああ違うぞ、断じて嫉妬なんかじゃない。
そう、断じて、だ!
「百面相ですね、何考えてたんですか?」
「………いきなり出没するのは止めてくれ、古泉。」
一瞬、本当に心臓が止まるかと思った。
ところで後ろからやってきたお前がどうして俺の表情を見れるんだろうな。
「それはあれです、愛の力ってやつです。」
「殴るぞ。」
「じゃあ、禁則事項で。」
よし、殴ろう。
手に持った三枚の手紙をぐしゃぐしゃに握りつぶしてしまわないように、反対側の手で鳩尾に軽く一発。
ハンサム顔は傷付けない。
やるならボディだ、ボディ。
「ちょ、な、なにするんですか……!」
「いや、まあ、腹が立ったもんで。」
断じて、断じて嫉妬じゃない!
頭の中でその言葉をぐるぐると繰り返しながら蹲る古泉の背中に手紙を置いた。
お、意外に落ちないもんだな。
「えっと、あなたから……じゃ、ないですよね。」
「何で俺がお前に手紙を出さねばならんのだ。可愛い可愛い女生徒からだよ。」
おっとチャイムが鳴った。
後五分で授業が始まるじゃないか。
「…古泉。」
「いや、あの、えーと、」
何だ、はっきり言え。
言うことがないならこの掴んだ腕を離してくれ。
「怒って、ます、か?」
「はぁ?」
俺がいつ、どこで怒ったというのだ。
というか何故怒らなければならん。
「だって、いつもより三割増なんですもん、眉間の、シワ。」
もんって何だ、二十代後半。
そんな言葉を使ったからって可愛く見えるもんじゃないぞ。
そう言いながらも俺は掴まれていない方の手を眉間に当てる。
触れたところで分かるもんでもないが、条件反射というやつだ。
「気のせいだ。もしくは目がおかしくなったか、だな。
さあ手を離せ、可愛い生徒たちが俺の素晴らしい授業を待っている。」
「でも、あのー、」
まだ何かを言おうとしている古泉の脳天にチョップをかまし、俺は軽くなった荷物を抱えなおして教室へと向かう。
授業開始のチャイムが鳴ったがまあ構わないだろう。
寄っていると言われた眉間のシワを伸ばすように揉み解し、眼鏡を上げて静かな廊下をゆっくりと歩くことにした。
古泉の馬鹿野郎、妙なことに気付きやがって。
何度でも言うぞ、ああ、何度でも。
これは、断じて、嫉妬じゃ、ない!
ああ、ポーカーフェイスは難しい。
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認めたくない、俺ばっかり好きみたいじゃないか。
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