痛む腰を引き摺って登校。
古泉はもうすでに飛行機の中だろう。
何故?
高校二年生の中では一大イベントになるであろう、修学旅行の引率教師だからである。
しかしいいなあ、スキーだぜ、スキー。
しかも北海道。
俺たちの頃は長野だったのに。
そんなこんなで、平和な平和な、古泉のいない日常だ。
存分に堪能しようじゃないか。
いつも通り、眠ってるやつは眠らせたまま授業を進める。
ふふん、精々幸せに眠っているがいい。
テストは特別難しい問題をだしてやろう。
そうか、学生時代に俺が眠ってたとき、先生はこんな気分だったんだな。
どうりで数学が全く分からなくなるわけだ。
今更ですがすみません、先生。
のんびりとした授業が終了し、教科書を閉じる。
なーんか首が痒いな、なんて思ってたら生徒の一人が笑顔で俺を指した。
「キョンせんせー、その首の絆創膏どうしたの?」
「え、は?」
首に絆創膏なんて貼ったっけ?
そう思いながら自分の首筋に触れる。
……確かに、ある。
痒いわけだな、そりゃ。
「キスマークとかあるんじゃないの?ねーせんせ!」
「あー違う違う。掻きすぎて血が出ただけだから。
お前たちが思ってるような爛れた大人事情なんて俺にはないの!」
「ええーつまんない!」
「つまんなくて結構。」
すまん、教え子たちよ。
そんじょそこらの大人事情よりも爛れた関係を育んでます。
しかも、相手はあの古泉一樹。
ああしかしやけにでかい絆創膏だな。
いらん気遣いだな、感謝はするが。
しかし初めからキスマークなんて見えるところにつけなければいいのに。
部室棟にひっそりと向かい、誰もいないことを確認してトイレに入る。
十年前からある一部が欠けた鏡は、今もまだ欠けたまま。
朝は寝惚けていて気付かなかったらしいが、結構目立つ位置にそれは貼ってあった。
「……ばんそーこー、持ってたっけ?」
まあ保健室にもらいに行けばいいか。
びっと一気に剥がすと少しだけ痛かった。
ぐしゃぐしゃに丸めてゴミ箱に捨てる。
さて、どうなってることやら。
時が、止まった。
正確には止まることはない。
そりゃ、昔のハルヒの力じゃあるまいし、時が止まるなんて有り得ないけれど。
確実に、俺の時は止まっていた。
「…………あ、のやろおおおおおおおお!」
殴りたい!今すぐ殴りたい!
ああちきしょうあいつは今北海道でのうのうと滑ってやがるんだむかつく!
握り締めた手はそのまま首元へ。
とりあえず隠せ。
そして早く保健室へ!
頭の中で叫ぶ言葉とは裏腹に、俺はその場で蹲った。
顔が熱い。
いや、むしろ全身が熱い。
「な、にが、」
ああもう、声さえ出ない。
恥ずかしいやつ恥ずかしいやつ恥ずかしいやつ!!
「な、にが『I love you』だよ馬鹿!」
んなもん首に書くな!
試しに水をつけた指で擦ってみるが少しも落ちやしない。
油性ペンか。
油性ペンで書きやがったのかあいつは。
冷たい水で顔を洗って何とか熱を冷まして。
首を押さえたまま俺は保健室へと走った。
職員棟なら授業中に俺が走ってることなんて分からないだろう。
たまにすれ違う先生が何事かと俺の方を見るが、構っていられない。
とりあえず、オキシドール!
あれ、オキシドールじゃ消えない?
除光液とかあんのか?
もういっそ絆創膏でもいいから早く隠そう!
とりあえず鏡を見ながら絆創膏を貼り付けて、その日は事無きを得た、と言っておく。
勿論、帰ってから首筋が真っ赤になるほどに擦って文字は消した。
ちょっと痛い。
電話して下さいね、と笑った古泉は、今日は無視。
携帯の電源を切って俺は速やかに就寝。
帰ってきたら説教だな、まずは。
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次の日起きたら忘れてるだろうけど。
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