コールミー・コールミー


世界は神によって創られた。


そんな夢のような話を信じている人間がいる。
何て馬鹿げているのだろう、と思いながらも僕は愛想笑いを絶やしはしないのだ。

上層部の人間にはある程度服従しておいた方が色々と動きやすくなるから。


だから僕は、ひたすら仮面を被り続ける。

何があっても、涼宮さんの力が消える日まで、外してはならないのだ。



なのに、


「辛いなら、苦しいなら、縋ればいいだろ?泣きたいなら泣けばいいだろ?
お前は人間で、ここに生きてる限り、その権利が剥奪されることはないんだ。」


僕に優しい言葉をかけないで、労りの言葉を降り注がないで。

被り続けていた仮面に、ひとつ、ひびが入った。


「ハルヒの前なら仕方がないかも知れんがな、いないときまで無理に笑う必要はないんだぞ?」


僕の仮面を壊さないで、僕の役割を忘れさせないで。
一度壊れたらきっと、何度被り直したところで意味はなくなるんだ。

笑うのを忘れてはいけない、だって僕は、僕という存在を望んではいけないから。


彼女の、涼宮さんの、力が消えるその日まで。
その日まで、昔の僕の、自然な姿は消し去らなければならない。


「ありがとうございます、ですが僕は大丈夫ですよ?」

「嘘をつくな。鏡見てみろ、今にも泣きそうな顔してんの分かってんのか?」


そんなはず、ない。
だって僕は三年間も練習してきたんだ。

長門さんの無表情並には感情を読み取りにくいという自信が、ある。


「自慢じゃないがな、俺は人の表情を読むのが意外に得意らしくてな。
だから、どんだけ分かりにくかろうが、一年も一緒にいる相棒の表情を読み間違えたりしないわけだ。
理解していただけたかな?古泉一樹くん。」


ああどうして。
どうして、この人は。


「……本当に、」

「ん?」


どうしてこの人は、僕の今まで欲しかった言葉をくれるのだろう。

無意識に、僕を救ってくれる。


今までも、出会った頃から、ずっと。


「本当に、いいんでしょうか?弱音を吐いてしまったら次から演技が出来る気がしなくて、怖くて。
それでも、縋っていいんでしょうか?」


反応が怖くて、俯いて握り締めた手元を見つめた。
大きなため息が向かい側から聞こえて、思わず肩をすくめる。


「馬鹿だろ、お前。」


失礼ですね、と返したかった。
言葉は喉の奥で消えてしまって、何を言うことも出来なかったけれど。


「演技なんて、いくらでも出来るだろ。
俺が言ってやってるんだ、何も疑わずに従ってろ、馬鹿。」

「馬鹿って、二回言いましたね…。」

「馬鹿に馬鹿って言って何が悪い。」


更に言いますか。


容赦のない人だ。


いつも自然体で、でも人の心をよく見ていて。
とても、優しい人。


「ハルヒは、きっと許してくれるよ。完璧な人間はいないんだって、一番知ってるのはあいつなんだ。
お前が多少落ち込んでたって『珍しいわね』の一言で済ましてくれることだろうさ。」





―――――本当は、





ぽつ、ぽつ、と。
僕は途切れ途切れに言葉を紡いだ。

紡ぐ、なんてお綺麗なものではなかったけれど、彼は何も言わずにただ聞いてくれて。


「本当は、呼んで、欲しかったんです。」


仮面なんて、灰色の世界なんて、力なんて、必要ない。


「ありのままの僕の名前を、呼んで欲しかったんです。」


作られた性格なんかじゃない、望まれた性格なんかじゃない。
ありのままの、等身大の、僕の名前を。


「いくらでも、呼んでやるよ。」


小さな声に、僕はやっと顔を上げた。


「あ、の、」

「今の表情の方が断然いい男だぞ、古泉。」


珍しい、彼の笑顔。
こんな表情も出来るんだな、と思っていたら頭の上に手を乗せられた。


「お前の本音を知ってるのが俺だっていうのは皮肉かも知れんがな、ありのままのお前の名前を呼んでやることは出来るぞ。」


俺は本当のお前を、お前自身から聞いたんだから。


瞼の裏がひどく熱くて。
ほんの少しだけ、泣いた。

それを彼はただ笑って受け止めてくれて。





明日からは、また歩いて行ける、気がする。












「帰るぞ、古泉。」

「はい。」













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初心に帰ってみた。
友情っていうより両片思い。









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