Pretense pessimist
「あなたが、嫌いです。」
なんて言うから、とりあえず一発殴ってやった。
痛いだろう、大ボケ野郎。
倒れ伏す古泉から顔を背け、ひっそりと涙を流したなんて、嘘だ。
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「ムカつくから一回殴らせろ。」
「何ですかいきなり。断るに決まっているでしょう!」
今回はお前が全面的に悪い。
何で俺がお前に嫌いだと言われたからって泣かなければならないのだ。
「俺の夢に現れたお前が悪い。」
「理不尽ですよ!」
何が理不尽か。
いつも俺に好きだ愛してるなんざ吐きやがって、夢では嫌い、だと?
ふざけるのも大概にしてくれ。
「お前なんて、嫌いなんだからな。」
「はいはい、分かってますよ。」
言われ慣れました、と微笑む古泉に吐き気がした。
嫌いと言われて笑うのか。
お前は俺が好きなんじゃなかったのか。
ああ違う、断じて違う。
俺は古泉なんか好きじゃない、嫌いだ。
じゃあ、嫌われたって構わない、というかむしろ好都合じゃないか。
「もう、知らん。」
「え、あ、あの!」
何だ、殴らせてくれるのか?
そうでないなら話しかけんな馬鹿。
俺の腕を掴む古泉の手が、熱い。
いつの間にか並べられていたオセロはばらばらに崩れていて、ゲームは完全に勝敗を決めるものではなくなっている。
「離せ!」
「離してほしいなら、理由を話して下さい。」
理由って、何の理由だよ。
何も話すことなんてない。
「今まで何も聞きませんでしたが、限界です。
……どうして、あなたは僕に『嫌いだ』と言う度に泣きそうな顔をするんですか?」
「―――――っ!」
ほら、何やってるんだよ自分。
知るか、って言い捨てて手を振り払えばいい。
そしたら、何も変わらない。
今まで通りの日常に戻れるんだ。
「今日は、何の夢を見たんですか?」
「お前には、関係ない。」
「好きな人のことを知りたいと思うのは悪いことですか?」
ずく、と胸の奥が疼いた。
「俺は話したくない。」
「知られたくないんですか?あなたの本当の気持ちを?」
本当の気持ちって何だよ。
今目の前にいる俺が、全てじゃないか。
「僕はあなたが好きです。あなたは?」
「…………嫌い、だ。」
声が震えるのを止められない。
―――――こんなの、嘘だ。
本当は好きだと言われて嬉しかった。
俺も好きだった。
夢で嫌いと言われて悲しかった。
いつもお前が嫌いだと叫ぶ度に胸が痛いと叫んで軋んだ。
もしかしたら機関とかに言われたから仕方なく、かも知れない。
もしかしたら、本当は俺のことを嫌いなのかも知れない。
傷付きたくない、から、俺から予防線を張った。
嫌いだ、古泉なんて嫌いだ。
自己暗示をかけて。
―――――好きだ。
想いには鍵をかけて。
「僕は、あなたの本当の気持ちが知りたい。」
がたん、と音を立てて古泉が椅子から立ち上がったかと思った瞬間、俺は何が大きく暖かいものにすっぽりと包まれた。
抱きしめられて、いる?
「は、離せっ!」
「じゃあ突き飛ばして下さい。嫌いだと叫んで僕を突き飛ばせばいい。自分から、逃げ出せばいい。」
いつもより近い顔が、少しずつ近付く。
「逃げないんですか?」
「―――っ、」
逃げられるわけ、ない。
俺はお前が好きで、好きなやつに抱きしめられているのに嘘をついて突き飛ばすなんて、無理だ。
「もう、逃がしません。言って下さい?あなたの気持ちを。」
ああ、捕まってしまった。
罠かも知れないのに。
傷付きたくないのに。
「好き、だ。」
涙が零れそうになるのを必死に堪えて、震える声で言葉を紡ぐ。
「ずっと好きだった、古泉が、好きだ。でも、俺が傷付きたくなくて、古泉はもしかしたら俺のことが嫌いなのかもって!」
嬉しかったのに、何も返せなかった。
俺が、怖がりだから。
「だから、だから!」
「いいですよ。」
ぎゅう、と苦しいくらいに抱きしめられて。
声が、なんて優しく柔らかで。
「もう言わなくても、分かりましたから。」
額に口付けが降って来て、思わず見上げた顔は、見たことがないくらい幸せそうな笑顔。
「僕、今なら死んでもいいです。幸せで、何を言ったらいいのかも分からない。」
「何、言って、」
そんなことなんて、あるはずがない。
世界は悲劇に満ち溢れていて、俺が幸せだと感じるなんて、そんなこと。
「愛してます、何も心配はいらない。僕たちが別れるときは、あなたが僕を振ったときです。」
「……こい、ず、み、」
嘘だ、全部嘘なんだと心の奥が叫ぶ。
じゃあ、この古泉の表情は、嘘?
「あなたが不安を感じなくなるくらい、愛して差し上げますから。覚悟、して下さいね?」
一回ぐらい、信じても罰は当たらないんだろうか?
「ばーか。」
仕方がないから信じてやるよ、馬鹿泉。
感謝、しろよな。
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ずっと疑心暗鬼なキョンを書きたかったのに、気付いたらデレてました。
あれ………?
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