Claret
長い長い眠りの中、待ち望んだ目覚めの日。
「おはようございます、麗しきマドモアゼル。」
「……っ!」
目を開いた瞬間に飛び込んできたのは、俺にとっての最大の敵だった。
ずっと閉じ込められていて少し重くなった体を何とか動かし、全神経を目の前の男に注ぐ。
「古泉……和樹!」
俺を十字架の中に封印した忌まわしきエクソシスト。
名を呼べばそいつは驚いたように眼を瞠り、笑顔で首を横に振った。
「僕は古泉一樹です。和樹は祖父の名前ですよ。」
「嘘だっ!」
本当ですよ、と言って古泉(名前なんぞどっちでも構うものか)は古びた十字架を取り出した。
「百年前ですよ、あなたが封印されたのは。」
「うわああ投げるな!死ぬ!!」
放り投げられた十字架は俺の手の中に落ちた。
掘り込まれた文字は『kyon』、と。
…人の名前は正式名称で記して欲しかった。
「ほら、大丈夫でしょう?」
「へ、あ、あれ?」
彫られてあった名前に気を取られてしまったが、そう言えば俺、十字架に触れている。
「……偽物?」
「いえ、本物ですよ。」
じゃあ何で、と問おうと思って自分の手を見た。
俺ってこんなに細くて綺麗な指してたっけ?
肩にふわ、と当たるのは、髪?
こんなに長かった覚えはない、というかすごく短かったはずだ。
「今のあなたに弱点はないに等しいでしょうね。まあ約1000℃の熱に当たれば簡単に溶けちゃいますけど。」
くすくすと笑いながら古泉が指した先にはくすんだ装飾品に埋もれた全身鏡。
古泉と、どえらい美少女が映っていた。
「誰だ、あの美少女。」
「誰って、あなたですよ?」
いやいや、俺は吸血鬼だから鏡には映らないっての。
「もういい、話してても埒が明かない。俺の恨みを晴らすために、死んでくれ。」
―――――ぽんっ
「おや。」
「え、」
空中からぱらぱらと可愛らしい花が落ちてきた。
二回、三回、繰り返しても結果は同じ。
「何で!」
「あなたの魂は蝋人形に移させてもらいました。その鏡に映ってる美少女の中に、ね。」
もう一度全身鏡を見遣って、美少女を見つめる。
右手を振ったら鏡の中の少女も手を振った。
飛び跳ねたら鏡の中の少女も飛び跳ねた。
笑ってみて、ひたすら動いてみる。
試しにもう一度魔法を使ってみた。
―――――ぽんっ
花に、ぬいぐるみ、色鮮やかなスイーツが目の前と鏡の中で溢れた。
「な、なあああああっ!」
「やっぱり美少女は何をやっても映えますねえ。」
せ、折角復活できたと思ったのに!
「も、戻せ!元の姿に戻せ!殺さないから!!」
「嫌ですよ、その蝋人形は渾身の出来なんですよ?」
誰か通訳呼んできてくれ!切実に!!
本来なら俺と身長は変わらないであろう男の襟を掴んでぐらぐらと揺らす。
それでも古泉はへらへらと笑いながら止めてくださいよ、と言うだけだった。
「ひとつ、元に戻る方法がありますよ?」
「本当か!」
教えろ、と詰め寄れば手に何かを握らされた。
「……ほう、き?」
「それ以外の何に見えますか。」
これが何の役に立つのだろうとひたすら見つめてみるが、どう見ても何の変哲もないほうきにしか見えなかった。
「これが、何だ?」
「この屋敷の掃除をして下さい。」
「はあっ!?」
古泉がドアを開いた先、長く続く廊下と沢山の部屋。
「メイドとして働いて下さい。反論は許しませんよ?」
「何で俺が!」
やはり古泉はにこにこと笑っていて。
気に入らない表情のそいつは俺の前で十字架を揺らした。
「また、この中に戻りたいですか?」
「くっ………!!」
この外道!と叫んだら何とでも、と返された。
悔しすぎる。
「どこだ、どの部屋からやればいいんだ!」
「そうですねー、掃除の前にお菓子が食べたいです、作って下さい。」
「だから何でおれ、が……作ります。すみません、作らせて下さい。」
ゆらゆらと揺らめくくすんだ銀色の十字架を睨みつけて、俺は勝手に台所を探し始める。
「今日からよろしくお願いしますね、キョンくん。」
抵抗にもならない抵抗として、俺は返事をしなかった。
俺の大きなため息が、廊下に響いた。
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吸血鬼パロ、と見せかけてギルナザンパロです。
原作大幅無視を検討しております、そして続きます。
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