―――――思い出せ。
(何をだ?)


―――――思い出せ。
(忘れたことなんてない。)


―――――思い出せ。
(ああ、ウルサイな。)


―――――俺は、忘れている。
(…ん?)


―――――大切なことを、忘れている。
(この声、は。)


―――――思い出すなら、今しかない。
(俺の声、か?)


―――――世界、を。
(一体何なんだ。)


―――――世界を、見捨てるな。
(それはハルヒに行ってくれ。)


―――――俺は鍵なんかじゃない。
(……どういうことだ?)





―――――世界を、作った、のは、







フェイク


目が覚めた十秒後にアラームが鳴った。
妹が飛び込んでくるにはまだ早い時間。

頭はやけにすっきりしていた。
久し振りの感覚だ。

俺は枕元に置いてある携帯から、古泉に電話をかけた。
結構寝汚いやつだから、俺専用の着信メロディに手を伸ばすのは少しばかり遅いはずだ。


コール音が………………十七回目にしてやっと寝惚けた声が聞こえる。
ちなみに欠伸混じりだ。


「今日、学校に着いたら真っ直ぐに屋上に来い。」

『へ、』


返事も聞かず、間抜けな声を一文字聞いたところで電話を切る。
ついでに電源も落とす。

いつも通りに着替えて階段を軽快に降りた。


「あら、早起きね。」

「ん、今日は朝飯いらないから。」


もっと早く言いなさいよ、という母親の声を背中に靴を履いて外に足を踏み出した。


息が白くなる寒空、陽はまだ低い。


睡眠時間は明らかに足りていないはずなのに、もう眠れる気はしなかった。


……否、眠れはしないだろう。
俺の体は、異常にして正常を保っている。

人間では到底有り得ないが、俺にしてみればこの状態こそ正常だからだ。


「さむ、」


今朝の、夢。
耳元で響く俺の声。

思い出せ、と。

ああ俺は何を忘れている。
今朝思い出したことでは駄目なのか。

世界を何故、俺が見捨てなければならないのか。
疑問が疑問を呼んで段々こんがらがってきた。


たかが夢、されど夢。


何を、俺は忘れた。
何を思い出せばいい。

風が俺の短い髪を抜けて行った。









後ろから、扉の開く音と一人の気配。

呼び出された男は動きを止めた。


ここは屋上、鳴り響くのは一限目開始のチャイム。


「キョン、くん?」


やっと口を開いたか、と微笑んだら古泉は急に顔をしかめた。
どうした、古泉。


「―――――あなたは、誰ですか。」

「俺は、俺だよ。」


何も変わらない。
俺の全ては、俺。


「じゃあ改めて聞きます。……あなたは、何者ですか?」


俺は古泉に背を向けて、今にも雪が降り出しそうな空を見上げた。









「俺は、神だ。」













-------------------------------------------------


かみさま、どうか、かみさま。









ブラウザバックでお戻り下さい。