Claret 2


緩やかなウェーブを描く黒髪を高く結い上げリボンで括る。
ひらひらのフリルがついたネグリジェを脱ぎ捨てて、これまたひらっひらのメイド服を着込み、ブーツの紐を結んだ。

初めは着方など全く分からなかったのに、慣れとは恐ろしいものだ。


ふぅ、とひとつため息を零して階段を降りる。


「お兄さま、彼女がキョンさんですか?」


俺の天敵にそっくりな男はそう問いかけた少女に笑いかけた。


「えーと、古泉?」

「ああ、紹介しますね。彼女たちは僕の妹ですよ。
今朝まで友人宅にお泊りだったので、会うのは初めてになりますね。」


聞くのも初めてだがな。

柔らかな笑顔を向ける少女と、無表情の少女。
身長は人形に入った俺と同じくらいだろう。

似たような瞳が真っ直ぐに俺を見つめた。


「あたしは古泉みくるです。双子の姉になりますね。よろしくお願いします、キョンさん。」

「……古泉、有希。」


この人形はかなりの美少女っぷりを発揮しているが、双子もまた相当な美少女だった。
古泉はえらく美形だし…この家の遺伝子はどうなってんだか。


「よろしく。…みくるさんと有希さん、で構わないか?」


みくるさんは大きく頷き、有希さんはかろうじて分かる程度に小さく頷いた。


「いいですね、美少女が三人談笑している図というものは。」

「折角の雰囲気を壊すな、鬼畜外道が。」

「これはこれは、お手厳しい。」


あーあ、癒されたと思ったのに、台無しだ馬鹿野郎。


「じゃああたしたちは部屋に戻ります。朝食で会いましょうね!」


そう言うとみくるさんは有希さんを引っ張って階段の上へと消えて行った。
しかしこの屋敷は広すぎないか?


似ていないようでどこか似ている美少女たちを見送り、隣に立つ忌まわしい男を見上げる。


「お前……。」

「何ですか?」

「シスコン、だったんだな。」


蝋人形である俺の顔の造形は、二人と並んで『三姉妹です』と紹介されてしまったりなんかしたらうっかり信じてしまいそうなほどに似ている。
みくるさんと有希さんの顔を足して二で割ったような顔、と言った方が早いだろうか。


「当たり前じゃないですか。」

「自信満々に答えるな。」


まああんなに可愛かったらシスコンになるのも分かるような気がするが。


「そうでしょう!」

「心を読むな!」


手に握っていたほうきで古泉の頭を一発殴り、足をキッチンへと向ける。
朝食の準備も勿論、俺の仕事。





後ろで頭を抱えている男は無視だ、無視。











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「ふわあ、」

「……。」


みくるさんが感嘆の声を上げ、有希さんは目を輝かせる。

広い食卓には、色とりどりのスイーツが並んでいた。
三段のケーキに、薔薇の形の砂糖菓子、カラフルなキャンディに様々な形のクッキー、スコーンにジャムは三色、アップルパイにレモンパイ……etc

現在の時刻は午後三時。
世間ではおやつの時間、というわけだ。
昼食が済んでから掃除にも手を付けずに頑張った最高傑作……と言いたいが実は大半は魔法によるものだ。

これくらいしか出来ないようになってるんだがな、あの男のせいで。


「これは、すごいですね。」

「何だ、お前も食うのか。」


甘いものは苦手です、みたいな面しやがって。


「大好きですよ、甘いもの。コーヒーには砂糖を五杯とミルクをたっぷり入れますから。」

「それは甘すぎだ。」


俺だったら吐く、絶対吐く。


「あ、でも甘いおかずとかは許せません。甘い卵焼きなんて言語道断ですね。」

「面倒くさいな。」


扉付近でそんな会話をしていると、いつの間にかみくるさんと有希さんは自分の席についていた。
待たせちゃいけないな、一応夕食もあるわけだし、早めに食べてもらわないと。


食べるように促すと、二人は顔を見合わせてこちらに向かう。


「いただきます、キョンくん。」

「いただきます。」

「どうぞ召し上がってくれ。」


華やかなテーブルクロスを見つめ、俺もまた席に着いた。
お菓子は好きだが、飲み物は勿論ブラックコーヒー。

古泉みたく子供味覚じゃないんだ。


「キョンくん、明日有希と買い物に行くんですけど、一緒に行きませんか?」

「え、あ、……えーっと、」


俺は吸血鬼だから、外には出られないと言うべきか。
迷っていると、一切れのケーキを平らげ二切れ目に入っている古泉が口を開いた。


「あ、その体だったら太陽の下に出ても問題ないですよ。どうぞ、行ってきて下さい。」


その瞳の言葉は、容易に読むことが出来る。
要するに用心棒代わり、何だろう。


「じゃあ、お供させてもらうとするよ。」


みくるさんが有希さんの手を取って喜ぶのを、俺はどこか複雑な気持ちで見守った。









あ、古泉、お前ケーキ食いすぎ!













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まさかのお兄さんと双子の妹。
基本ほのぼのです。

古キョンになる気配すらない。









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