ああ、神よ。
さようなら、神よ。

きっとあなたは世界を、お見捨てになられたのですね。




Eli, Eli, Lema Sabachtani?


世界が灰色に包まれたのは三ヶ月前。
太陽は昇らず、不気味な暗闇に囲まれた世界。
何故かそこは、いつものように機能していて。

どうして誰も疑問を持たない?
三ヶ月もの間世界に朝は訪れず、夜さえも訪れていない。



僕の心の中にあるあの明るい世界は、どこ?
気が滅入りそうだ。


「…なあ、あいつはどこにいるんだ?」


機関は、この現象を『原因不明』とした。


「分かりません…。」


この世界は、全てを包み込む灰色は、あの世界そのもので。

部室で朝比奈さんが泣いた。
未来が、変わってしまったと。

彼女の未来もまた奇妙な世界の中にあるのだろう。



どこまでもどこまでも続く、暗い空。
改変者だけを、残して、どこまでも。

長門さんは何も言わず、いつものように本を読んでいた。
尤も、頁を捲ることは皆無に等しかったが。
彼女の中にも何か、言いたいことがあるのかも知れない。


だが、聞いたところで答えてはくれないだろう。


「涼宮さんは、どこに行っちゃったんですかあ!」


世界がまるで閉鎖空間のようになった最初の日。
僕は世界の鍵たる彼と共に、学校に向かった。

部室には彼女はおらず、教室に行っても机はない。
機関が知っていた彼女の住所、そこを訪れると涼宮夫婦は言った。


『家に、娘なんていませんけど。』


ああ、彼女はどこに?
涼宮さんの精神はほぼ落ち着き、あと数ヶ月もすれば力は完全に消えるだろうと言われていた。

僕たちは高校二年生、季節は、秋。
北高祭を間近に控えたある日のことで。



ねえ、神様。

あなたは何がしたかったのですか?
あなたは僕たちを置いて、どこに行ってしまわれたのですか?

どうして僕たちは捨てられてしまったのですか?
どうして世界はこんなにも悲しいものになってしまったのですか?


分からない、分からない。



神様、神様、何故僕を、お見捨てになられたのですか。







答えて、神様。













































***   ***   ***













「全ての真相は、私の中。」


誰もいない部室、明かりさえない暗闇。
神人の姿は見えない学校、本の頁が風に捲られて。

長門は一人、窓の外を見つめながら呟いた。


彼女は知っていた。
彼が、古泉一樹が、朝比奈みくるが、知らないことを。


彼女は知っていた。
何が嘘で、何が真実なのかを。


「さようなら、神様。」


情報統合思念体の概念として、神様は一体何に当たるのだろう。

音もなく静かに点いたパソコンの電源。
長門有希は、窓の外を見つめたまま。


『機関内の最終決定は、涼宮ハルヒの殺害で相違ないですね。』


パソコンの中で、誰かが喋る。


『恐怖が世界に何を与えるか、我々が最後に観察すべき事柄として、これ以上のモノはないでしょう。』


パソコンの中で、誰かが動く。


『古泉一樹には、内密に。』

『彼に話が伝わってしまったら、きっと阻止するはずでしょう。』

『鍵が動く可能性も高い。』

『観測結果は、必ず最高のものでなければならない。』

『チャンスは、一回なのだから。』





―――――ぷつ、





画面は再び真っ暗に変わり、長門は席を立った。
本はきちんと本棚に戻して、傍らにあったカバンはそのままにして。


「あなたたちは、それで、満足?」


文芸部部室から、人気がなくなった。
誰も訪れない、土曜日の深夜一時。

再び映し出された画面には、



「Eli, Eli, Lema Sabachtani?」



真っ暗な部屋。
機関上層部の人数は約二十名。

誰も、地に足は付かず。



天井からぶら下がる紐は、まるで、髪の毛のようだった。


「黒い髪は、誰の?」











真相は、全て、彼女の胸の中。













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Eli, Eli, lema sabachtani?
エリ、エリ、ラマ、サバクタニ
(神よ、神よ、何故私を見捨てられたか。)

ハルヒ、ごめん……最近こんなんばっか。









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