知ってるか?
虹の下には、宝物があるんだ。
顔さえ覚えていない彼の人は、そう言って消えた。
二本の虹が、青空に溶けていった。
龍虹
雷が鳴り響き、大粒の雨が降り注ぐ中、時間は既に深夜二時過ぎ。
一本のメールが携帯を震わせた。
「……朝比奈、さん?」
駅前の公園に今から来て、とそれだけが書かれたメールの文章は黒一色。
どこか長門を思わせる雰囲気だ。
カーテンの隙間から見えるのは暗闇と窓に張り付く水滴に、部屋の煌々とした明かり。
寝静まった家の中を、足音を立てずに歩く。
たまに軋む板に少しびくびくしながら俺は使い古したビニール傘を手に取り、前が見えない雨の中に身を投じた。
ぽつぽつとある外灯が暗闇を小さく小さく照らす。
「キョンくん。」
「……え、」
家から僅か数メートル、淡い桃色の傘が外灯の下でゆらゆらと揺れていた。
「今から、過去に行ってもらいたいんです。」
「今から、ですか?」
はい、と彼女は頷いたのだろう。
ぐらり、と大きくひとつ、傘が揺れた。
顔は見えない。
俺には、笑っているように見える。
微かに見えたのは伸ばされた細く白い手で。
俺は傘から腕を出してその手を握った。
―――――暗転。
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夜明け、だろうか。
山の端から見えるは薄紫にたなびく空。
今まで雨が降っていたのだろうか、地面は水溜まりが出来るほどに濡れていた。
気付いたら俺は公園の中心に立っていて、傍らに朝比奈さんの姿はない。
その代わり、公園の入口には見知った姿があった。
「古泉?」
ここは、『いつ』だ?
知らない学校の制服を来て、俺を見ている。
少しだけ、幼いように感じた。
「あなたはどうしてずっとここにいるんですか?」
「………どうして、だろうな。」
近付いて来た古泉は俺と同じ目線で首を傾げた。
真っすぐに向けられる瞳はまるでガラス玉のように生気がなく、表情は人形のように動かない。
「あなたは、僕の何ですか?神様の、何ですか?」
ああ、朝比奈さんはだから俺を連れて来たのだろうか。
「俺はただの人間だよ。神様の夢じゃない、神様の玩具じゃない、ただの人間。」
「ただの人間なら、世界の夢じゃないんですか?」
「世界はそんなに狭くないから、神様は夢を見切れない。
世界は神様じゃない、神様こそただの人間なんだ。」
ぽかんとした顔で俺を見つめていた古泉は徐々に俯き、完全に下を向いた。
渇きかけた地面にぽつぽつと落ちる雫を、朝日がきらきらと照らす。
古泉の頬を撫でて、俺は口元を緩めた。
「知ってるか?虹の下には、宝物があるんだ。」
きっとお前なら見つけられるよ。
きっとお前なら生きていけるよ。
未だに俯いたままの古泉が顔を上げた瞬間、俺の視界がくらりと揺れる。
ああ、さよならだ。
また三年後に会おうじゃないか、俺の―――――、
目を閉じて、もう一度開く。
そこは同じ公園。
けれど、目の前にいた人物は違っていた。
「僕、宝物を見つけたんですよ。」
古泉が、笑う。
俺の知った姿で笑う。
「いつ見付けた?」
「今、ですね。もしかしたら三年前だったのかも知れませんが。」
俺の頬を撫でる大きな手。
ゆっくりと目を閉じて、幼かった古泉を思い出す。
「あなたはいつだって、虹の足元にいる。僕の大切な大切な、宝物。」
俺の後ろには綺麗な青空と、二本の、虹。
雨は完全に上がっていた。
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雰囲気だけで書いてます。
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