Cendrillon
落としたガラスの靴は赤い泉に沈んで鈍く輝く。
ドレスの切れ端が散った階段、投げ捨てられたティアラ、鐘の音が響く。
辺りに漂う硝煙の香りに、甘ったるい香水の香りが混じって空を抜けていった。
鮮やかな薔薇の花が、時期外れに咲き誇る美しい庭園。
赤い赤いその花は、一体何を見たというのだろう。
------------------------------
ふわり、はらり、落ちてゆく。
宵闇の中、存在を主張するかのように咲き誇る。
「桜………?」
子を生すこともなく、散ってゆく運命だけを背負った花。
全てはひとつの木から咲く改良種。
「お前も、ひとりなのか?」
俺も今はひとりなんだ。
相手は未だに、中にいるだろうから。
「お前くらい綺麗だったらあいつは俺を見てくれたかな。」
木に額を押し付けて、桜色に染まる地面を睨みつける。
ああ、俺が綺麗な女だったなら。
―――――あいつの目に、止まった?
他の女と同じだなんて嫌だけれど、でも。
それでも、あいつといられるなら。
叶わないだろうか。
そうだ、きっと叶わない。
俺はいつからこんなに女々しくなったんだろう。
俺はもっと、………もっと、何だ?
そうだな、どう足掻いても俺は男。
出来損ないの、人間。
恋なんて知らなければ愛なんて気付かなければ。
そうだったなら、きっとずっと。
何もなく、平和なままでいられた。
「…こんな季節に咲く桜が、あったんですね。」
「―――――っ!?」
俺の思考のほぼ百パーセントを占めていた男の声に振り返れば、案の定、そこには。
月明かりに照らされた紅茶色の髪が風にそよぐ。
どうして、そこに。
どうして、外に?
「探しましたよ。あなた、急にいなくなるんですから。」
嘘だろう?
だってお前、楽しそうだったじゃないか。
女の子に囲まれて、俺になんて。
「散歩に行きたい気分だったんだよ。」
「散歩、ですか。」
何か文句あるのか。
訝しげな表情で古泉は俺の目の前まで歩いてくる。
「だってあなた、ここは公園ですよ?
学校から公園までどのくらいの距離があると思ってるんですか。」
「そんな気分だったんだって。」
何も聞かないで欲しい。
どうしてお前はここにいるんだろう。
どうしてお前は俺を追いかけてきたんだろう。
「……シンデレラの話を、知っていますか?」
「はあ?」
何がどうなって今の会話が『シンデレラ』に繋がるんだ?
理系の考えることは分からん。
お前、実はAB型だったりするだろ。
……話がいきなり飛ぶのはB型だったか?どうでもいい。
「どうして魔女は自分の利益にもならないのにシンデレラを城へやったのでしょう。綺麗なドレスに靴、馬車に従者までつけて。」
「知るか、ただのお伽噺だろ?」
笑顔で語る男は俺の隣に並び、桜の木を見上げる。
色素の薄い瞳が俺のほうを向くことはない。
隣に古泉がいるのに、やっぱり俺は自分ひとりしかいないような錯覚に陥っていた。
「全ては僕の推測でしかないんですよ。魔女には何かしいら思惑があったのだ、と。
それが何かは本当に自論になってしまうので話すのは控えましょう。」
「じゃあ最初から話すなよ。」
「いえね、きっと十二時には綺麗な薔薇が咲いたのだろうな、と思いまして。
まあ僕は愚かな王子にはなりたくないんですけれどね。」
何が言いたいのかさっぱり分からなくて、俺はまた視線を桜に送った。
綺麗な桜。
この木の下に死体があると詠うようになったのは一体誰が始まりだったんだろう。
「お前、戻らないのか?」
「僕ですか?シンデレラを追いかけて来たんです、戻るべき場所はここですよ。」
さ、と目の前に差し出されたのは綺麗に折りたたまれた、しかしシワの寄ったハンカチ。
「ガラスの靴じゃないのか?」
「あなたならきっと26センチの赤いスニーカーですね。」
「残念だな、26.5の間違いだ。」
心は未だに孤独のまま、寒いまま。
きっと暖まることはないのだろうけれど。
「さあ戻りましょう?僕だけのシンデレラ。」
「馬鹿だろ、お前。」
「あなたのためにならいくらでも馬鹿になれますからね。」
ああそう言えば桜って元々は薔薇の一種なんだよな。
俺たちの後ろで散る赤い花びら。
俺がシンデレラだったら、庭園に綺麗な赤い薔薇を咲かせただろうか。
-------------------------------------------------
某曲に感化されました。
※解説?
古泉の考えるシンデレラは、王子を殺すために魔女に送り込まれたシンデレラ、ということ。
十二時に王子を殺し、慌てて逃げてきたという考え。
桜が薔薇の一種だと気付いたキョンは、古泉の自論に辿り着くわけです。
「もし俺がシンデレラだったら古泉(王子)を殺せただろうか。」
少しだけ病んでるキョンくん。
ブラウザバックでお戻り下さい。